番外編⑥-2 夫の目的

そうして連れてこられたのは、帝都の外れの森の中だった。


馬車が停まると、アナルドはさっさと外へと出ていく。

二人で自然の中を散策したくなったのだろうか。いぶかしみながら、続いて降りると、目の前には白い教会があった。高い入り口の奥には小屋のような屋根が見える。


「こんなところに、教会があったのですね」

「うちで管理している教会です。霊廟もあります。先祖代々がそちらに眠っている場所です。母もこちらに」


帝国は侵略の歴史にまみれている。帝都の位置だけは変わらないので、帝国貴族たちは領地ではなく帝都に霊廟を置くことが多い。そのための教会を自分たちで建てて管理するのだ。つまり、この一角がスワンガン伯爵家のものということになる。


嫁いできてから一度も訪れたことがなかったので、気にはなっていた。そもそも義父が全く墓参りをしない。アナルドも戦地に行ってしまうので、長い間、聞くこともできなかった。


帝都の喧騒からは離れた落ち着いた場所だ。こんなところにあるのなら、早く聞いておけばよかったと悔やんだ。


「お義母様ですか、ぜひご挨拶をさせていただきたいですわ。でも、今日は全く準備をしていないので…お花くらいはご用意していただいてます?」


墓参りなら、エルメレッタも連れてきてあげたかった。

なぜ二人だけなのかと、バイレッタは残念に思う。


「墓参りは今度にしましょう。こちらに来ていただけますか」


だが、彼の目的は墓参りではないらしい。では、なぜ霊廟に来たのか。さっぱり見当がつかずぼんやりしていると、アナルドは木目の扉を開けると、中へと促した。


身廊は主殿へと続く長い廊下だ。大理石でできた石床はまっすぐに伸びていて、その先には同じく精緻な彫りが施された真っ白な扉がある。高い天井は木目で複雑な模様を表現しており、思わず目を奪われる。左右の壁の高い位置に窓があり、柔らかな光を受けて廊下を照らしていた。


両脇に並び立つ柱の間を進みながら、アナルドは奥の扉ではなく、右へと折れた。

ちょうど十字型に交わる廊下は今度は絨毯を敷き詰めた木目の床に変わった。後ろを振り返れば、向こうにもいくつかの扉が見える。


そのうちの一つの扉を開けて、アナルドは躊躇なく進む。


「さあ、どうぞ」


アナルドが声をかけてきたので、そのままついていく。部屋には鏡台があり、中にいた女性たちが綺麗に一礼してバイレッタを向かい入れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る