第84話 離婚したいのは貴方
アナルドとの結婚生活に不満があるか、との問いにバイレッタは考えた。
それは、もちろん不満はある。
むしろなぜないと思うのか。
だが、それよりも離婚したいのは彼の方ではないのかと思うのだ。
そうでなければ、あの初夜の日に、ふざけた賭けなど持ち出さないだろう。
「離婚したいのは貴方の方ですよね?」
「俺がですか? そんなつもりはありませんが」
「そうですね。離婚したいのかしたくないのか、貴方はどちらでも構わないんですよね。そうでなければ、あんな勝つつもりのない賭けなど言い出さないでしょう?」
アナルドにとって妻は無料の娼婦で、たくさんの女が寄ってこないようにする虫避けで。
それは別にバイレッタじゃなくてもいいのだ。
そういう立場に収まっている女であれば、悪評が立とうが毒婦だろうが、全く頓着しないのだろう。
最大限の不満がそこに直結しているだなんて気づきたくもなかったが。
「勝つつもりはありますよ」
「は、はあ? だって子供だなんてそんな人を小馬鹿にした話がありますか。そんなのどうでもいいってことでしょう?」
「好きな女性と自分の子供が欲しいと思うのは小馬鹿にしたことですか?」
「好きなって、だって貴方にとって妻は無料で抱ける娼婦なんでしょう?」
「妻は愛する女性ですよ。そりゃあ欲望もありますが。なんせ魅力的な女性ですから。それが悪いことですか? というか、無料の娼婦ってどこかで言われたのですか?」
アナルドの目が鋭くなったので、バイレッタは心臓がどくんと音を立てた。
やばい、項がピリピリする。
なぜ、そんなことで怒るのか。
彼の怒りのツボが未だにわからない。
だが、確かに夜会の日に立ち聞きした際に、無料の娼婦だと言っていたのはジョアンで彼ではなかった。だが、否定しなかったではないか。
だから、てっきり彼に言われたのだと思い込んでしまったのだ。
「バイレッタ?」
「あ、いえ。誰からも言われてません、ね」
「本当ですか?」
「本当です!」
疑わしそうにしていたが、なんとか納得したらしい。
バイレッタはほっと胸を撫でおろした。
「それで、俺との結婚生活のどこが不満だと?」
「え、え、えと…夜の回数が多いこと?」
「それは申し訳ありません。ですが、妻が煽情的で…慣れれば落ち着きますので我慢してください」
「はあ? えと、所かまわずなところ?」
「それも貴女が悪いですね」
「それ、私が悪いのですか?」
あっさりと自分が悪いと責められるので、バイレッタは呆れた。
アナルドには改めるつもりがないらしい。
だが、これでは離婚ができないではないか。
だって、足手まといにはなりたくないと思ったのに、これ以上迷惑をかけたくないのに。
もしまた同様のことが起これば、きっと彼は同じように助けてくれる。
自分には助けなど必要ないのに。
護られているだけだなんてまっぴらごめんだというのに。
それに、何よりバイレッタが辛い。
だって彼が好きだと気が付いてしまったから。
だが反論しようとすると、足音が再度響いた。
すぐに声がかかる。
「隊長、撤収いたしますか?」
「そうですね、では一度戻りましょうか」
「ヤー・ゲイバッセ!」
軍人の敬礼の中心にいる男が、振り向いてにこやかに笑う。
「話の続きは戻ってからにしましょう。貴女を家まで送りますよ」
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