第83話 気の多い妻とは?
「くっくっく……貴女は時々、ものすごく鈍感ですね。そういうところも可愛いですが」
褒められているのか、貶されているのかわからないが、なんとなくからかわれているのはわかった。
じろりとアナルドを睨みつければ、意地の悪そうな笑みを浮かべつつエミリオたちに視線を動かす。
「どうにも伝わっていないようですが」
「同情は不要だ」
「知ってもらわなくても結構だ」
「なんとも気が合うようで」
呆れたように告げた声には、どこか憐れむような響きも含まれていた。
バイレッタは一人置いていかれたような居心地の悪さを味わった。
「で、これからどうしますか?」
「どうせ、こちらも抑えられているのはわかっている」
エミリオが苦々しげに吐き捨てれば、荒々しい足音が部屋に近づいてきた。
「隊長、制圧完了しました」
びしりと廊下で敬礼したのは軍服に身を包んだ男たちだ。
五人が並ぶ姿は少人数だが、威圧感がある。
「ご苦労様。この二人も連れて行ってくれ」
「はっ」
「軍人風情が立法府にたてつくのか?」
「犯罪者はそれなりの扱いを受けますよ。クーデターに直接関与はしていなくても、罪状は書類偽造だけでは済まなさそうですしね」
「ふん、そんな些末なもので俺がどうにかなるものか。それに議長殿がどう動くか、せいぜい楽しみにしているがいい」
「それはこちらの台詞でもあります。どうせ、貴方たちの独断でしょうから。彼は優秀な者がお好きで、無能は嫌いでしょう。切り捨てられないといいですね。もちろん中尉も軍人のまま裁かれますよ。除隊の書類は認められてませんからね」
さすがに分が悪いと閑念したのか、エミリオとヴォルクは軍人たちに連行されて部屋を出て行った。
「彼らの処分は重くなりますか?」
「議長の裁量次第でしょうか。侯爵家の嫡男ですから、彼の家が尽力するでしょう。中尉の方はさすがに無罪放免で釈放というわけにはいきませんから、一緒に助けてもらえるかどうかで変わりますね。気になりますか?」
「方法は別にして、一応助けてくれたようなので……」
「なるほど。俺の妻は本当に気が多いですね。これはお仕置き決定ですか」
やれやれとため息をつかれて、バイレッタは腕の中から夫をねめつけた。
気の多い妻とは誰のことだ。まさか、自分だろうか。
「偽造だとしても、現在書類上では私は貴方との縁は切れていますが。無関係の貴方に決定権があるとお思いですか?」
アナルドの体を押しのけ、するりと腕から逃れる。
そのまま胸を張って、顎を反らしてみたが、あまり効果は与えられなかったようだ。
むしろ、彼の怒りに油を注ぐ結果になった。
「書類の件はすぐに撤回できます。後でもいいと言いましたよね。それよりも、貴女に、わからせる必要があるということですね。俺との結婚のどこが不満ですか?」
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