第66話 本当の惚気
その日の夜には義妹の部屋で彼女の婚約者にすっかり助けられたことを話していた。
行動は迅速に。
特にこういう楽しい話は早めにしたい。
「ベナード様がお義姉様を助けてくださったの?」
案の定ミレイナはきらきらと瞳を輝かせた。頬を薔薇色に染めてまさしく恋する乙女だ。可愛らしい様子に思わず笑いが溢れる。
「ええ、そうよ。とても助かったの。それで、彼の希望は貴女に誉めてもらいたいのですって。すっかりあてられてしまったわ」
「もう、お義姉様はそうやってすぐにからかうのだから!」
「あら実際にベナードがそう言ってきたのよ? まあ可愛いらしい貴方たちを見ているのが好きなのも本当だけれど。だから、今度三人で遊びに行きましょうか」
お邪魔虫は二人を引き合わせたらすぐに退散するつもりではあるが、義妹たちに任せていたら結婚式まで逢わなさそうだ。
ミレイナは忙しいからと気を遣って、ベナードはしばらく会っていないので会わせる顔がないと恥ずかしがっていた。
焦れったすぎて即断即決のバイレッタはヤキモキしてしまうのだ。
「本当? 領地にしばらく戻っていたから帝都でのお仕事が溜まってお忙しいかと思っていたの。三人で出掛けられるのは嬉しいわ」
「何言ってるの。久しぶりに婚約者に会えるから嬉しいのでしょう?」
「もう、お義姉様と出掛けるのも本当に久し振りです! どちらも嬉しいに決まってるのに、意地悪だわ」
「はいはい、ありがとう。では都合のいい日を教えてちょうだい」
「お義姉様は信じてらっしゃらないでしょう?!」
「ふふっ、ごめんなさい、冗談よ。私も嬉しいわ。何処に行きましょうか。最近は帝国歌劇団も演出に凝っていて観客は皆びっくりするそうよ」
「シャーザの絵画展も開かれてるってお母様が話していらしたわ。それにディッテルの表通りに新しいレストランができたのですって!」
「あら、体がいくつあっても足りないわね。ベナードは何が好きかしら」
「彼ならどこでも一緒に楽しんでくれるわ」
本当の惚気というのはこういうことを言うのだとレスガラナに教えてあげたい。
甘さで胸焼けしそうだ。
きっとベナードならミレイナが嬉しそうにしているだけで楽しいとか思っていそうだ。きちんと伝えるには恥ずかしすぎてできないだろうが。そんな心の機微は傍で見ていると駄々漏れの筒抜けだ。
全く微笑ましいったらない。
「若奥様、宜しいですか」
コンコンとノックの音がして、ドノバンが顔を出した。
「お話し中、失礼いたします。工場の方から至急で若奥様にお会いしたいと使いが来たので、玄関で待っていただいているのですが」
「あら、何かしら。ごめんなさい、ミレイナ。少し外すわね。いくつか日取りを決めておいてもらえるかしら」
「わかりました、後でまた相談させてください」
「ええ、では後でね」
ミレイナが部屋の外まで見送ってくれた。その柔らかな笑顔を振り切ってバイレッタは足早に廊下を進む。
至福時間を邪魔した至急の用件をあれこれと考えながら。
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