第63話 返品不可で送り届けて!
「カーデンヘーゲの毒花が、冷徹狐を虜にしたとか? 氷の中佐が行方不明とか? なんだか随分と面白い話を聞きましたよぉ」
「軍に納品に行った際にも言われましたね。普段はどんな夫婦の会話をしているんだ、とかいろいろと聞かれましたが」
ガーデンヘーゲは毒を持つ紫色のとげとげしい花だ。バイレッタの瞳をかけた冗談にしては随分とエッジが効いている。
そんなあだ名があったとは知らなかったが、できれば永遠に知らないままがよかった。
「スワンガン中佐って、柔らかい表情もできるんだって婦女子の間で人気も爆上がりしてましたけど。浮気とか心配じゃないんですか?」
「その時は先方へ返品不可で送り届けてちょうだいな」
願ったりかなったりだ。
しれっと答えれば、うししと彼女はほくそえんだ。
「つまり、それだけ愛されている自信がある、と。工場長の惚気を初めて聞きました」
「貴女が勝手に解釈しただけでしょうに」
「いやいや、今のは惚気ですよ。ねぇ、レットさんもそう思いません?」
「そうですね」
「ほらほらほら! 領地になんて向かわない放蕩息子が、嫁が来た途端にべったりくっついて行ったって、そりゃあ貴族派の方々も大騒ぎで。スワンガン領地で夫婦の絆を深めてきたんですよね? 」
スワンガン領地では水防工事の視察をして、温泉に入って、納得のいかない老害どもと舌戦を繰り広げただけだが。
彼は一体何をしに領地へ向かったのか。
アナルドも一応は視察にはついてきたが、姿を消していることも多かった。
むしろ退役軍人の様子を見るために視察に同行したがったような?
「彼も仕事だったのよ。きっとクーデターの情報を掴んでいて地方の様子を見に行ったんでしょうね」
しばらくは仕事で忙しいと会ったばかりの頃に言われていたのに、四六時中バイレッタにつきまとっているからどういうことかと訝しんでいたのだ。
戦争帰りの休暇にしても、さすがに長すぎやしないかとか、残務処理はこちらに戻ってきてもあるはずだとかいろいろと思うことはあった。
仕事だと思えば納得する。
そして怒りが増した。
仕事の片手間に妻を好き勝手に抱く夫というのは、本当に腹立たしいものだ。
しかも賭けで。
その上、散々いやらしい体だとか、妻が誘ってくるとか、我儘な妻を喜ばすのが大変だとかさもバイレッタが悪いかのような言葉ばかり投げつけてくる。
いつ、どこで、誰が、そういうことをしたというのか!
「ありゃ、工場長が素直に怒ってる。愛しの旦那様の仕事に嫉妬ですか? ずっと領地でいちゃいちゃしてたくせに、淋しくなっちゃったんですか」
「馬鹿なこと言ってないで、時間がきたのではないの?」
ちらりと柱時計を見つめれば、十時十分前を指している。
レットがやれやれとため息をついた。
「ああ、仕事がほとんど進んでませんね…」
「仕方ないわね、午後からきっちりやるわよ。それより、お客様を丁重にもてなさなければね」
「迎撃用意ってやつですね!」
不敵に笑うレスガラナにしっかりと頷き返した。
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