閑話 目には見えないもの(アナルド視点)

視察の終わりに現場監督のセゾンにウィードの仕事終わりの動向を訊ねれば、町の酒場を教えてくれた。時々セゾンも利用しているようで、一緒になることもあるが、大抵ウィードはそこにいるらしい。


バイレッタには体調が悪いと晩餐会の出席を断って、教えられたとおりに店にやってくれば、彼は一人で夕飯を食べていた。


機密漏洩で軽く説教をした後で本題に入ろうとすれば、すでに妻を口説いていたらしい。手の早さでは隊の中でも一、二を争っていた男だ。相変わらずの様子に呆れたが、相手がバイレッタだと思うと不快さが増す。


だが、女のことならよくわかる男は数言の会話で妻の性格を把握したらしい。だからこそ、相談相手に選んだのだ。

自分の目に狂いはなかったと、アナルドは本題を切り出した。


「いや、待ってください。それをオレに聞くのは間違ってますよ」


とりあえず追加の麦酒が運ばれてきたので一息で飲み干し、空になったジョッキを机に叩きつけながら、ウィードは必死でいい募る。


「オレは失敗したことありませんから。責任とれと迫られたこともありませんよ。そういうのは子供がいる妻帯者に聞くべきでしょうが。なぜさも女を孕ませたことがあるように認識されているんです? 女遊びの鉄則はきちんとした避妊を心がけることでしょうが。孕ませたら遊べなくなっちまう」

「孕ませないように気をつけている貴方だから、むしろ誰よりも孕ませ方を知っていると思いまして」

「え、それはオレじゃなくてもいいでしょう? アンタの上司の方が上手だ」

「ドレスラン大将閣下に聞いても面白がるだけです。それに彼の普段の行いは既に対応済です。妻には効果がイマイチでしたから、信用性が低いんです。ですから、今度はバイレッタを見抜ける貴方にぜひ聞いてみたいと思いまして」


怒涛に説明すれば、ウィードは納得したらしい。だが、何故自分なのかはやはり疑問が残るようだが。


「そりゃ、あんなマメな遊び人を参考にしちゃ奥さんは怒るんじゃないっすか?」

「ほう、それは閣下にも言われました。何故です?」

「アンタの奥さんみたいなタイプは目に見えないものを重視するからですよ」

「目に見えないもの、ですか?」

「言葉とか心です。気遣う態度や声かけで愛してるって気持ちを現すんですよ」


目で見えないものをどう表現するのかといえば、アナルドが最も苦手とすることだった。だが、確かモヴリスも似たようなことを言っていた気がした。


「ふむ、愛している、ですか?」

「え、なんでそんなこと聞くんです? 奥さんを愛してるから子供が欲しいんですよね?」


なるほど、愛してる相手の子供は欲しくなるらしい。だから、子供ができなくて残念に思ったのか。

だが、バイレッタを愛していると認めるのはひどく勇気がいった。なぜかはわからないが、上手くいかない無理難題な作戦を上司に押し付けられたような違和感がある。


「やはり参考になります。で、どうすればいいですか?」

「はぁ、アンタ本当に性格変わりましたね…まぁいいや酒も貰ったしな。確か、女の月のものが終わってから一週間よりやや長い間は抱きませんね。体温が高くなって少ししてからにしてます」

「体温?」

「女って体温が結構変わるんですよ。抱いてて温かい時にお願いするようにしてますね。それが一番孕みにくいんだって馴染みの女が教えてくれたんで」


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