第30話 決戦に向かう気持ち
「レタお義姉様、お帰りなさい! お父様からお話は伺いましたわ。お兄様から逃げられなかったんですね…」
ミレイナの部屋に入るなり、彼女はバイレッタに飛びついてきた。
随分と心配をかけたようで、いつも以上に落ち着きのない義妹の背中をゆっくりとあやすように撫でる。
しかし話を聞いたのはアナルドからではなく、義父からだったようだ。彼が報告したのだろうか。
「心配しなくても、一か月延びただけなのよ」
「そうなのですか? 朝食の席ではお父様はお義姉様は一生この家にいるようなことをおっしゃられていましたけれど」
彼女の言葉に少しひっかかったものの、あの仲の悪い親子に碌な会話がないことは明白だ。アナルドの方はどうか知らないが、義父は大層苦手に思っているのが、普段の言動から察せられるのだから。
「昨日はせっかく送別会を開いてくれたのに、申し訳ないわ」
「お義姉様が傍にいてくれるほうが嬉しいので私はいいのですが、なるべくお兄様の近くにはおられないほうがよろしいかと…」
義妹の忠告に従いたいが、賭けがある以上そういうわけにもいかなさそうだ。なんとも頭が痛い話ではあるが。
毎夜のように体の関係を迫られるものだろうか。
思わず昨晩の行為が思い起こされて、バイレッタは屈辱で頬を染める。
あちらの方が経験豊富な分、優位に立つのは当然だろう。だが、一方的に翻弄されて終わるのは自尊心が許さない。
契約上の申し出には従うが、振り回されるのは我慢がならない。
「お義姉様、やはり何かありましたか? 朝食の席でお兄さまとお会いしましたが、相変わらず冷たい感じの方でしたから。きっとお義姉様が辛い思いをなさいます…」
あの男はこんなに可愛らしい妹を前にして無表情を貫いたのか?
別の意味でもふつふつと怒りが湧き上がる。
小さい頃から愛らしかった少女は、成長してすっかり可憐な美少女になっている。
バイレッタは惜しみない愛情をかけて彼女を育ててきた自負がある。
デビュッタントに連れて行った際には、周りから随分と注目を集めた彼女だ。もちろん婚約者のべナードだって瞬殺だった。
バイレッタには義妹の愛らしさに誇らしくさえあるというのに。
血のつながりがある兄が無関心とはどういうことだ。
バイレッタの心の癒しでもあるのに。
「貴女の可憐さがわからないだなんて、なんて愚鈍な男なの。感情がないのでしょう。ああ、可愛いミレイナが心配してくれているだけで私は頑張れるわ。貴女のことをしっかりとあの旦那様にアピールしておくから!」
「え、あのお義姉様。私のことではなくて、お義姉様が心配なのですが…」
戸惑う視線を向けてくる可愛い義妹の頭を優しく撫でて、バイレッタは決戦に向かうような気持ちになるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます