第21話 寂しいのですか?

3ヶ月が過ぎてもやはり返事は届かなかった。

さすがに、これ以上相手の出方を窺うのも限界だ。


バイレッタは家人に出ていく旨を告げた。すると義母と義妹はささやかな送別会を開いてくれた。

夕食にはバイレッタの好物を並べて、新たな門出を祝ってくれる。なんとも面映ゆい気持ちになったが、善意の気持ちが嬉しくもある。離婚する義娘に対する気遣いにしてはなんだかおかしいとは思うけれど。


義父は始終渋い顔をしていたが、義母も義妹もにこやかだった。


「ここを出たら、どちらに?」

「実家にも戻れませんし、工場の方の社員寮にでも向かいます」

「あら、工場長が越してくるだなんて社員さんもびっくりしそうね」


義母がのんびりと笑う。実際、びっくりどころの騒ぎではないだろうが、実家に出戻って兄夫婦の子どもの面倒をみさせられるのも真っ平御免なのだ。


「お義姉様、時々は遊びに行ってもいいでしょう?」

「あなたはすぐにバイレッタさんに甘えて。お仕事の邪魔をしてはいけませんよ」

「でも、これっきりでお義姉様にお会いできなくなるのは寂しいわ」

「逃げる必要はないとは思うけれど、もしものことを考えて所在を変えるつもりなの。一か所にはいないから、ミレイナが来ても会えないかもしれないわね。落ち着いたら手紙を書くわ」

「絶対よ、レタお義姉様」


姿は大きくなったけれど、可愛らしい義妹は健在だ。

なにより純粋に自分のことを慕ってくれる瞳が嬉しい。照れ隠しにからかうように笑いかけてしまう。


「ベナード様に困らされたらいつでも報せてちょうだいね」

「もう、お義姉様は時々イジワルだわ!」

「ふふ、ごめんなさい?」


ベナードなら可愛い恋人を困らせるようなことにはならないと思うけれど、ミレイナが勝手に寂しく思うことはありそうだ。

夢見がちで想像力のたくましい彼女のことだから、思い込んだらどこに向かって突っ走るかわからない危うさはある。

傍にいれば、嗜めることはできるが離れてしまえばそれも難しい。


8年間は短いようで長かったようだ。

感慨深くもなる。


「バイレッタさんなら、大丈夫だと思うけれど、体には気をつけてね」

「ありがとうございます、お義母様」

「旦那様は今日はいつにもまして無口なのは寂しいからですか? 可愛がっておられましたものね」


義母が横に座る義父を見やる。眉根を寄せた不機嫌な顔は、夕食が始まってもずっと変わらず、視線が集まっても緩まることはなかった。


「あら、本当に寂しがられておられますの?」

「うるさいっ」


いつもの一喝も精彩を欠いている。一言でも二言でも皮肉げに返すのが義父なのだが。

普段らしからぬ様子に、もう少し警戒すれば良かったと悔やむのはもっとずっと後になってからだった。




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