第69話 編入最終日(後編)

 奈月ちゃんからの告白騒ぎが終わったその後も授業は続く。


 授業自体は、元のとこに戻ってもそんなに変わらないだろうけど、こうやって男女一緒に授業を受けることは大学まで無いんだろうな……。そんなことを思いながら、辺りを見回す。


 そして、いよいよホームルーム。


「皆さん。今日で、東西との交換学生期間は最後となります」


 という担任の先生の言葉で始まった。交換学生制度の意義とか、僕たちにはこの期間の体験を持ち帰って、役立てて欲しいとか色々説明される。


「この辺はお題目というか、正直、どちらでもいいと思います」


 ただ、と続ける。


「この期間に仲良くなった人たちとのつながりは大切にしてください。縁というのはずっと残り続けますからね」


 そんな言葉が印象に残ったのだった。


 さて、放課後ということで、せっかくだから四人一緒にどこかにでも、と思ったら、既に正樹たちは居なかった。


「もう帰ったのかな」

「トモたちはデートやって」

「そっか。じゃあ、僕たちも帰る?」

「そうやね」


 ということで、編入最終日の放課後は意外とあっさりとしたものだった。


「いやー、でも、ほんとこの3週間は新鮮だったよ」


 特に、真澄の高校生活が見られたのは大きい。


「ウチもコウと一緒に高校生活出来て楽しかったわ」

「結局、一緒の中高行けなかったからね」


 一抹の寂しさは残る。


「そういえば、昼間の用事やけど。聞いてええか?」

「ああ、それか」


 お昼休みの顛末を明かす。


「というわけで、僕の事は好きでも、割って入りたいわけじゃないんだって」

「あの子も難儀な子やねえ」


 何やら考えている様子の真澄。


「ウチも嫉妬するとこなんやろうけど」


 少し複雑そうな表情の真澄。


「応援されてしまったら、嫉妬する気も起きないわなあ」

「だよね」


 そんなことを話していると、あっという間に家の前だ。

 

 来週からはまた別の高校か。そう思うと少し寂しい。


「来週から、また別の高校やね」

「うん。ちょっと寂しいかも」

「いつも通りご飯は作りに来るから」

「ありがとう。できれば、登下校も」

「もちろんや」


 気が付くと、真澄の身体を抱きしめていた。


「別に今生の別れってわけやないのに」


 腕の中の真澄が少し身じろぎをする。


「でも、同じ高校なのは今だけだし」

「それはそうやけど」

「だから、もうちょっとだけ」


 そうして、しばらく僕たちは抱きしめあっていたのだった。

 道を通った周囲の人たち複数の人たちにその現場は目撃されていたそうな。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る