第63話 彼女を元気づけよう(前編)

 7月8日水曜日。

 今日もまだ真澄は回復しきっていないいないようで、今朝は僕だけで登校だ。

 いつも隣にいる彼女がそこにいないのは、ちょっぴり寂しい。


 登校すると、正樹が声をかけてきた。


「よっ。中戸は大丈夫か?」


 ついで、朋美も。


「ますみん、大丈夫?凄い熱出てたみたいだけど」


 さらに、何故か


「真澄先輩大丈夫ですか?凄い熱が出たって」


 なんと、後輩の奈月ちゃんまで教室に来ていたのだった。


「真澄はほんと慕われてるね」


 そんなことを思ったのだった。


「大丈夫。熱はもう下がり気味だし、たぶん明日にも登校できるよ」


 と続けて、


「ただね。ちょっと悩みがあるらしくて。聞いてくれるかな?」


 そうして、昨日真澄から打ち明けられた悩みを相談してみることにした。真澄が今の生活が楽しくて、元の生活に戻りたくないと思っていること。そして、それに不安を感じていることを。


「なんつーか。コウも愛されてるな。いや、からかいじゃなくってさ」


 真面目な表情でそうつぶやく正樹。


「ますみんも、想いが強いっていうか。コウ君のことが好きなのはわかるけど」


 朋美は少し呆れ気味だ。


「あの。お二人がそれだけ好き合ってるのは素晴らしいことだと思います!」


 とは奈月ちゃん。そう思ってくれて嬉しいよ。


「それでさ。これ、どうしたらいいかな?」


 昨日一日考えたけど、答えが思い浮かばない。


「中戸は、また離れる生活に戻るのが不安ってことだよな」

「だと思うんだけど。でも、今までだって仲良くやってこれたのに、ねえ」


 真澄が今の生活を楽しんでくれるのは嬉しいけど、編入期間が終わったって、きっと、今までと同じようにやっていける……はず。


「そういうのは理屈じゃないんだよ。コウ君。不安なものは不安だから」


 と朋美。それはわかるんだけど、その不安を解消してあげるにはどうすればいいのか、皆目見当がつかないのだ。


「真澄先輩、ほんとうにコウ先輩のこと大好きですからね。最近はほんとに毎日楽しそうですし」


 とは奈月ちゃんの弁。そこまで言ってもらえるのは男冥利につきるけど、真澄を安心させるにはほんとどうしたらいいんだろうか。


「皆はさ、好きな人に何て言ってもらったら安心する?」


 ちょっとアイデアが出ないかな、と思ってなんとなく聞いてみる。


「俺たちは、コウに比べたら付き合い浅いからなあ」

「同じく。ますみんがどうすれば安心するか、かあ」


「その。私はまだ彼氏もいないんですが……」


 確かに、奈月ちゃんはまだ例の男の事は付き合っていないんだった。


「そういう人が居たとして、何を言ってもらえるといいかな」


 とにかく、誰かの意見を聞きたかった。


「うーん。その、あくまで、彼氏もいない人間の妄想ですよ?」


 と断る奈月ちゃん。


「妄想でも何でも。とりあえず、アイデアが欲しいかな」

「その……それだったら。永遠を誓ってくれたら、とか」


 場がシーンとする。


「あ、ごめんなさい。いくらなんでも先走り過ぎですよね」


 ペコペコと謝る奈月ちゃん。


「それだ!」


 今まで思いつかなかったけど、それならきっと。


「ええと、それでいいんですか?」

「ちょっと先走り過ぎじゃね?」

「私もちょっと……」


 皆に止められる。


「もちろん、今すぐにってわけじゃないよ」


 そう言って、計画を説明する。計画を聞き終えた一同は、


「それ、面白そうじゃね」

「ますみん、びっくりしそう」

「反応が楽しみですね」


 というわけで、真澄を元気付けるための計画が始動したのだった。明日は部活だから、決行はその後だな。


 そして、放課後になって、僕たちは明日の計画に向けて動き出したのだった。

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