第56話 遊園地で苦手なもの

 7月2日のお昼休み、食堂にて。


「1年の折原奈月といいます。真澄先輩とは部活の先輩後輩です」


 自己紹介をする奈月ちゃん。周りにいるのは、僕、真澄、正樹、朋美の4人だ。


「おう。こちらこそよろしく」

「よろしくね。奈月ちゃん」

「ウチらはいうまでもないけど、よろしうな、ナツ」

「同じく」


 それでやな。と前置きして、


「せっかくやし、ナツも遊園地に一緒に行ければって思うんやけど、どうや?」


 真澄がそんな提案をしたのだった。


 事の起こりは昨夜。真澄のところに、奈月ちゃんから、土曜日に一緒に遊びに行かないかというお誘いがあったのだという。ただ、あいにくと土曜日は僕たちと遊びに行く約束になっていたところ。断るかどうか迷った末、せっかくなら土曜日の遊園地に一緒に行くのはどうか、ということになったらしい。


「僕は大丈夫だよ」

「礼儀正しそうだし……俺も大丈夫だぜ」

「私も。ますみんの部活での様子も教えてもらえそうだし♪」


 特に異論なく、皆が承諾。

 というわけで、土曜日の遊園地は5人でということになった。


「遊園地って言えばさ。絶叫系って大丈夫だっけ?」


 話がまとまったところで、思い出したように、正樹がネタを振る。


「僕は大丈夫」

「ウチは一回転するやつはちょっと……」


 意外にも、真澄が難色を示した。


「それは意外」

「上から下に行くのはわかるんやけどね。天地がひっくり返る感じが苦手や」

「わかるわかる。私も」


 と、朋美も同調。


「私は大丈夫ですね。ジェットコースターとかフリーフォールとか乗ってますよ」


 意外に神経が図太いらしい奈月ちゃん。


「お化け屋敷とかは?」

「別に平気だな」

「大丈夫やな」

「私も」

「私もです」

「俺も」


 お化け屋敷っていっても、ほんとに怖いと思えるのってあんまりないよね。


「ていうかやな。お化け屋敷は、中で驚かせようとしている遊園地の人が可哀想になってくるんよ」

「わかるわかる。子どもだとお化け役の人にイタズラしたりね」


 あれは見てて、可愛そうになってくる。


「怖いというより、大変だなって感じだよね」


 お化け屋敷は、怖いというより、中の人が可哀想ということで満場一致らしい。


「迷路とかはどう?あれ、僕は結構好きなんだど」


 特に、工夫を凝らした迷路を、短い時間で突破するのは楽しい。


「誰かについてくんやったらええけど。あんまり迷いそうなのはちょっと……」


 と真澄。


「普通のはいいんだけど。立体迷路は、頭がこんがらがりそう」


 と朋美。


「立体迷路は、難しいよね。今度行くのは、普通のみたいだけど」

「それならいいんだけど」


 立体迷路でなければいいらしい。


「簡単過ぎるのだと、ちょっと退屈だな」


 と正樹。


「私は、すぐ迷子になってしまいます」


 と奈月ちゃん。確かに、この子はなんだか迷子になりそうだ。


「急流すべりはどう?今度行くとこにもあるらしいけど」


 夏だし、ちょうどいいんじゃないかと思うけど。


「急流すべりってあれよね。最後に水しぶきかかるやつ」


 あごに手を当てて、考え込む真澄。


「そうそう」

「……一回転せんのやったらええかな」


 考え込んだ末の結論がそれらしい。


「やっぱりそこが基準なんだ」


 確かに、急流すべりだと、天地がひっくり返ることはないけど。


「私は、水に濡れるのがちょっと。替えの服とか持ってこなきゃだし」


 女子らしい理由から、難色を示す朋美。


「俺は、せっかくだから、朋美の服が濡れるのが……イテっ」

「余計なこと言うから」


 服を褒めるのは照れるのに、そういう発言をするから。


「あれ。最後の水しぶきがかかるところがいいですよね!」


 と、積極的な奈月ちゃん。ジェットコースターの時もそうだったけど、結構度胸はあるらしい。


「お昼はどうしよう?遊園地で食べるって手もあるけど」

「遊園地のお昼って微妙なんよね」

「わかるわかる。外で買うよりも高いのにね」

「わかります、わかります」


 と女性陣三人。


 その後も、昼休みが終わるまで、当日の集合時間とか、他のアトラクションなどについて話が弾んだのだった。


 メンバーも5人に増えたし、いよいよ当日が楽しみになってきた。

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