第55話 親友の恋のお悩み相談

 7月2日木曜日。いつもより少し早めに登校して、真澄となんとなく雑談していたところ、正樹に声をかけられた。


「ちょっといいか?」

「どうしたの?」

 

 いつもより少し声が暗い気がする。


「えーとな、その……」

 

 視線が僕と真澄の方を行ったり来たりする。なるほど。


「あ、ちょっと席外すね。ごめん」


 それだけ言い残して、席を立つ。




「いや、ごめんな。せっかくの中戸との時間なのに」


 と心配するような声。


「いやいや、水臭いよ。それで、何か相談事?」


 真澄が一緒だと言いづらそうだったから、相談でもあるのかと踏んだのだけど。


「昨日、朋美とデートした時なんだけどよ」

「ふむふむ」


 そういえば、放課後、いつの間にか姿が消えてたと思ったけど、二人してデートだったのか。


「服を見せられて、「どう?」って聞かれたんだけどよ」

「いつもと違う服を着てきたの?」

「ああ。なんでも、夏に合わせたらしいんだけど」

「それで?」

「「まあ、いいんじゃないかな」って感じで返事したんだ。そしたらよ、朋美の奴、デートの間中何か不機嫌になってさ」

「それはさすがに、正樹が悪いんじゃないかな」


 人の事は言えないけど、せっかくデートのために服を変えてみたのに、そんな対応をされたら、不機嫌になるのも無理はない。


「俺もちょっとそっけなさすぎたとは思うんだよ。でも、何もそのくらいで一日中引きずらなくてもいいだろう?」

「気持ちはわかるけどね」


 話を聞いて、苦笑いする。僕も、そういうところはちゃんと気づいている自信がないので、他人事ではない。


「正樹は、朋美の服を見てどう思ったの?正直なところ」

「かなり似合ってた。短めのスカートに半袖のポロシャツだったんだけどよ。ぐっと来たっていうか」

「じゃあ、それを素直に言ってあげればどうかな」

「といっても、昨夜から気まずいしさ……」


 どうしたもんかな、とぼやく正樹。


「たぶん、朋美の方も気まずいと思うよ。だから、昨日は照れくさくてとかなんとか言ってさ。さっきの感想言ってあげればどうかな」


 理不尽な事でへそを曲げたままなのは、朋美としても不本意だと思う。


「それで許してくれるかね……」


 自信が無さそうな正樹。


「僕も、そんなによく知ってるわけじゃないけどね。たぶん、大丈夫だよ」


 そう励ます。

 

「コウが言うんならそうかもな。ありがとよ」

「いえいえ。仲直り、できるといいね」


 席に戻ると。


「話は終わったん?コウ」


 と真澄。


「うん。たぶん大丈夫だと思う」

「ひょっとして、朋美とのことやったりする?」

「うん。そんなところだね」


 詳細なところはさすがに言いづらいけど。


「やっぱりか。実はウチもなんよ」

「ということは、朋美の方からも相談が?」

「そういうことやね」


 目を見合わせて、くすりと笑い合う。

ふと、遠くの席を見ると、正樹と朋美の二人は、普段通り楽しく話しているようだった。仲直り出来たようで、一安心だ。


「仲良きことは美しきかな」

「うまいこというたつもりか?」


 そんな風にして、夏のある朝は過ぎて行ったのだった。

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