第51話 編入初日・放課後

「部活、どうしようかな」


 午後のホームルームが終わった教室にて。


「文芸部とかどうや?コウにあってそうやけど」


 と真澄。


「文芸部ね。悪くないけど……」

「けど?」

「期間限定なわけだし。今まで体験したことがないのがいいな」


 インドアな僕としては、文系の部活がいいんだけど。


「せやったら、ウチの料理部に来るか?」


 悪戯っぽい言い方。なるほど。その手があったか。


「それは盲点だったよ。じゃあ、料理部で」

「ちょい待ち!なんでそうなるん?」


 本気で採用されると思っていなかったのか、あわあわとしている。そんな様子がちょっと面白くて、愛らしい。


「いや、部活での真澄を見たいなって。男子だからダメってことはないんでしょ?」

「それはそうやけど。そう言われて、彼女としては断れんやろ」


 ううーとうなる彼女。最近、ちょっと動物っぽい。


「あーもう。皆の目もそうやけど、ナツが暴走せんか心配やよ」

「そういえば、奈月ちゃんも料理部だったね」


 すっかり忘れていた。

 あの子なら、僕たちを見て、また予想もつかないことをしてきそうだ。


「とりあえず、部活は火曜日と木曜日の2日やから。明日からな」

「了解。いや、ほんと楽しみだよ」

「ウチは憂鬱なんやけど」


 そこは勘弁して欲しい。


「……とりあえず、帰ろうか」

「そやね」


 他にやることもないので、鞄をとって歩き出す。

 休み時間もそうだったけど、やたら周りに見られている気がする。


「あ、中戸と……東西の男子だ」

「彼氏居るってのは聞いてたけどよ」

「幼馴染らしいぜ」

「何、その設定。羨ましすぎるだろ!」

「影ではあんなこととかこんなことやってるんだろうな」


 廊下でひそひそと噂話をする男子たち。

 聞こえてるんだけど。

 いや、あんなこととかこんなことはやってるけど。


「クラスの中はわかるんだけどさ。なんでこんなに……」

「ウチも知らんけどな。物珍しいんとちゃう?」

「ま、気にしても仕方がないか」

「そういうとこ、コウは図太いんやよね」


 褒められてるのかどうなのか。


 帰り道。


「今日はほんと、カルチャーショックだったよ」

「何いうとんのか。そんな異世界みたいな」

「いやいや、ほんとに違う世界だったよ。共学だと、こんなに違うものなんだね」


 僕の高校生活では、恋愛は学校とは別のとこで起こっている何かだったけど、共学だとそれが日常なんだ。

 そんなことを考えていたのだけど。


「コウもまた驚くとこがずれとるな」

「どこが?」

「篠原……はおいといて、他の編入してきた男子の様子、見とらんかった?」


 どこか呆れ顔だ。


「そういえば」

 

 すっかり忘れてた。


「ウチが見た感じ、皆、ノリがちゃうことに戸惑っとったよ」

「確かに。女子に免疫が無い男子多そうだし」

「そうやって冷静に分析してるとこもやで」


 さらにツッコミを食らう。


「そういうとこも、コウらしいんやけど。ほんと」

「僕らしい?」

「周りのこととか気にせず、自分の道を進むとこ」


 まだ実感が湧かないんだけど。


「真澄は結構周りをよく見てるよね」


 こうして同じ高校生活を送ってみると実感する。


「ウチだけやなくて、女子てのはそういうもんやで」

「そうなのかな」

「女子トークとかコウが聞いたら、ドン引きしそうやわ」

「そんなに?」

「ウチも女子同士の内輪ノリあんまし好きやないから、黙って聞いてるんやけど」

「教室だとそういう感じに見えなかったけど」

「そういうのは男子がおるからな」


 そういうものか。共学というのは奥が深い。


「でも、コウにがっかりされなくてよかったわ」


 ほっと胸をなでおろす真澄。


「がっかり?」


 何にがっかりなのだろう。


「ウチの学校での様子とかみて、とかなあ」

「いやいや。そんなことはないってば」

「それも頭ではわかっとるんやけどな。少しだけ、不安だったんよ」

「そんなこと考えてたんだね。気づかなくてごめん」

「謝らんでもええけどな。せやったら……」


 つまさき立ちで、目を閉じて顔を近づけてくる真澄。

 一度軽くキスをして、顔を離すと、またキスをされる。

 

「ちょっと興奮してる?」

「恥ずかしいから言わんといて」


 今度はお互いの身体を強く抱いて、唇を押し付けあうようにするキス。

 汗の香りや唇の感触、舌同士が合わさる感触、身体の暖かさを強く感じて、僕も興奮してくる。というか、下半身が。


「あ、そのさ」

「言わんでもわかっとるから。後でな」


 再び唇が押し付けられる。

 そうして、しばらくの間、キスを楽しんだのだった。


――


 一方、その頃。料理部後輩の奈月はといえば。


(先輩たち、熱烈だあ。舌とか入れてるの、初めて見た)

(って、またキスしてるし。恋人同士ってこんなことをするんだ……)

(これは創作の参考にしないと)


 影からその様子を、興味津々で観察していたのだった。

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