第50話 編入初日・昼休み

 わいわいがやがやの午前中をやり過ごして、時は昼休み。


「コウ君。一緒にお昼しない?もちろん、ますみんも」

「もちろん、お二人さんでしっぽりとしたいなら構わないけどな」


 と朋美と正樹からのお誘い。


「しっぽりって。正樹も言うようになったね」

「そりゃなんたって……痛っ!って何すんだ」

「デリカシーの無いことを言うのが悪い」


 急に膝をかかえて痛がりだした。何が起こったのかとみてみれば、どうやら朋美が蹴りを入れたようで。

 

(篠原の奴、余計なこと言うたなあ)

(なに。何か知ってるの?)

(女同士の秘密や)


 とかわされてしまう。どうも、交際絡みのことは間違いないようだけど。


「今日はお弁当じゃないし。真澄もいいよね?」


 確認を取るために、視線を合わせると、軽くうなずくのが見えた。


「コウ君とますみん、もう夫婦って感じだね」

「夫婦って……」

「……」


 最近、意識せずに自然に接するようになってきたと思ったけど、夫婦と言われると照れてしまう。


「やっぱり、まだまだみたいだね」


 僕たちの様子を見て、笑う朋美。


「とりあえず、お昼に行こう。案内してくれるんだよね?」

「もちろん」


 ということで、東津(とうづ)高校の学食に行くことになったのだった。


「うちのとこよりもメニューが随分多いな」

「だね。値段が少し高いけど」


 男子校二人組同士で、そんなことをしゃべる。うちの高校の学食と比べても、デザートにソフトクリームやシャーベットを売っていたり、ラーメンの種類も醤油とんこつや煮干しラーメンなんてものまであったりと、随分充実している。


「ウチのとこの学食は、そこが売りやからな。いつもやと、さすがに飽きてくるんやけど」


 麺類だけでも、うどん、そば、ラーメン、パスタがある。他には、小皿でサラダや納豆、おかずとライスを組み合わせる定食方式もあったり、パンも別売りしていたりと、なかなか飽きそうにないんだけど。


「とにかく。並ぼか」


 真澄に促されて、列に並ぶ。


 4人分の席を確保して、座る。

 真澄は、キャベツのサラダ、ご飯、卵焼き、味噌汁、焼き鮭、といったベーシックなメニュー。

 僕は、煮干しラーメン。

 正樹はそば天丼定食。

 朋美はパスタ。

 

 いただきますをして、食べ始める。


「で、どうだった?初日は」


 と朋美。


「っていってもまだ終わってないし」

「だよなあ」


 正樹も同意する。


「あ、でも。皆、他人の恋愛に興味深々なんだなってのは驚いたよ」


 正直、あそこまで質問責めに合うとは思っていなかった。


「コウはそういうの無関心やったからな」

「コウ君、昔からそうだったよね」

「まあ、コウだしな」


 ひどい言われようだ。


「僕だって、恋愛はするよ」

「それはますみんとの間みればわかるって。そうじゃなくて、他人同士の事情に深入りしないよねってこと」

「なるほど」


 言われてみれば。


「コウはさ。たぶん、人よりも物事に興味があるんやろな」

「物事?」


 ちょっとピンと来ない。


「たとえばやけど。コウは歴史が好きやよね」

「部活にまで入ってるくらいだしね」


 好きでなければ、わざわざ歴史研究部に入ろうとしないだろうし。


「でな。コウは自分の知っとることが高校のレベル超えてるっての気づいとる?」

「なんとなくは。でも、好きなことやってるとそうなるもんじゃないかな」


 歴史研究者の専門書を読み漁っているのは、高校レベルじゃないだろうけど。


「ウチらのクラスでも、歴史好きはいるけどな。世間で知られていない歴史の話が好き、とかそういうレベルなんよ。蘊蓄っていうんかな」

「ちょっとピンと来ないな。僕も大差ないと思うんだけど」


 読んでいる本が違うとかその程度じゃないのだろうか。


「断言してもええけどな。ウチのクラス連中の歴史好きと話しても、通じへんよ」


 苦笑しながら、そんなことを言う真澄。


「コウと話しとるとな。時々、先生と話してる気分になることがあるんよ」

「先生?」

「色々な物事について突き詰めて考えてるちゅうかな。とにかく、そこまで深く考えてるから、逆に他人の事情に興味がないんやろな」

「言われてみると」


 誰かが困ってるときはともかく、関係ない人同士の友人関係や恋愛関係にはあんまり興味を持ったことがなかった。


「とにかく。コウは驚いたかもしれんけど、ウチやとこれくらいが普通やから」

「慣れるようにしてみるよ」


 ラーメンをすすりながら頷く。


「それ、もらってええか?煮干しラーメンって食べたことないんよ」


 と真澄。


「どうぞ」


 丼ぶりを真澄の方に寄せる。

 煮干しラーメンをちゅるちゅるとすすると一言


「お味噌汁みたいなものかと思っとったけど。煮干しの香りが濃くて別物やね」

「合わなかった?」

「これはこれで、アリやな」


 そんな会話を交わしていると、なんだか視線が。


「どうしたの?意外そうな顔して」

「いや、そういうの抵抗ないんだってな」

「そういうの?」

「あ、ああ。そういうこと」


 何かに気づいたのか、少し気まずげな真澄。


「同じ丼ぶりでラーメンをシェアするのって、ちょっと珍しかったから」


 ああ、そういうことか。最初こそ抵抗があったけど、最近はお互いが味見したいものをちょっと上げるのが普通になっていたので気づかなかった。


「そういうとこ。やっぱますみんたち夫婦っぽいね」


 と茶化される。こういうからかわれ方には慣れていないので、照れてしまう。真澄も同じようで、対応しかねていたようだった。


「そういえばさ、正樹たちはどうなの?付き合ってるんだよね?」


 話題の矛先を変えてみる。


「俺たちは、ラブラブ……痛!いや、普通に付き合ってるぜ。映画を観に行ったり、卓球したりとか。あと、カラオケとか」


 さっきみたいに、やっぱり足を蹴られている。朋美と正樹の間はどうなってるんだろう。真澄の方を見ると、しょうがないなとばかりに苦笑いしている。


「僕たちはどれも行って無いね」


 これまでしたデートを思い返しても、映画も卓球もカラオケもない。


「卓球はともかく、映画とかカラオケは定番じゃないか?」


 と正樹。


「私もそう思う」


 朋美も同意する。


 映画……映画か。


「今度、映画行ってみる?」

「ウチも特に興味ないけど。何かお勧めのあるんやったら」


 と二人で話し合う。お互い、映画にあんまり興味がないものだから、候補に出て来たこともなかった。カラオケはちょっとやってみたいけど。


「ますみんも意外と世間ずれしてるよね」

「失礼な」

「僕もそう思う」

「コウに言われると、腹立つんやけど」


 睨まれる。


「ところでさ。今度の週末、4人で遊びに行かない?同窓会ってノリで」


 そんなことを朋美が提案した。


「それはいいな。やろうぜ」

「僕も賛成」

「ウチも」


 というわけで、あっという間に週末の予定が決まった。

 朋美とは会うことが少ないし、いい機会かも。


「で、どこに行くの?」


 行くのはいいけど、どこに行くか決めないと。


「遊園地とかどうかな?一度行って見たかったんだ」

「そういえば、デートで遊園地は行ったことなかったね」

「せやな。なんでやったんやろ」

「じゃあ、遊園地ってことで」


 そういうわけで、週末に遊園地に行くところまで素早く決定。


「にしても、遊園地かあ。意外と盲点だったかも」

「そうやね。お話でも定番のデート先やし」


 そんなこんなで、昼休みに皆で楽しくおしゃべりを楽しんだのだった。

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