第48話 編入初日・授業前

 僕がかっ飛ばした自己紹介をした後、クラスは騒然となったのだけど(そりゃ当然か)


「はいはい。騒ぐのはそこまでにしてください。他の子の自己紹介が控えているから、後は休み時間にね。それと、松島君」


 鋭い目つきで先生に見つめられる。


「男女交際がけしからん、とか、古臭いことはいいません。でも、清く正しく交際してくださいね♪」


 にっこりとした表情でそんなことをおっしゃった。目が笑っていなくて、怖いんだけど。既に清くないんだよね。


 真澄の方を見る。依然として羞恥に震えていたようだけど、先生の言葉が突き刺さったのか、さらにいたたまれない様子になってらっしゃる。目が合うと、ぎろりと底冷えするような表情でにらまれる。


 変な噂が流れるくらいなら、と思ったのだけど、ちょっとやり過ぎた?


 僕の自己紹介のインパクトがあまりにも大きかったのか、正樹を含む僕たちの同級生の自己紹介は無難に終わった。


 ホームルームが終わって、担任の先生が退出すると同時。周りにいたクラスメイトが凄まじい勢いで群がってきた。なにこれ?


「ねね。コウ君だっけ。真澄とどこまで進んでるの?」


 興味しんしんな様子の女子。黒髪ポニーテールで、小柄な子だ。活発そうな印象で、猫みたいだ。


「えーとその。名前、まだ聞いてないんだけど」


 まだ顔と名前が全然一致しないので、何て呼んでいいのかわからない。


「私はユーコって言うの。よろしくね」


 いきなり下の名前だけ紹介された。


「えーと。じゃあ、ユーコちゃん、でいいかな」

「ちょっとお堅いんだね。真澄とお似合いって感じかも。ひょっとして、キスもまだだったり?」


 キスどころか、とっくにエッチもしてるんだけど、さて、どうしたものやら。


「とりあえず、ノーコメントで」


 正直に言ったら言ったで色々言われそうなので、黙秘権を行使する。


「てことは、キスもまだなんだ。初々しいなあ」

「いや、その」

「大丈夫、わかってるから。真澄とのエッチなこととか、悩んでたら相談に乗ってあげる」

「あ、うん。ありがとう」

「それじゃ、また後でねー」


 それだけ言って、去ってしまった。


「ユーコの奴、なんか変な誤解しとるわ」


 振り向くと、ぐったりとした表情の真澄。


「真澄ちゃん、大丈夫?」


 一度ちゃんづけをしてしまった手前、後に引くことはできない。


「コウがそれを言うんか~」


 普段聞いたことのない低い声。


「いや、その。ほんとにごめん。勢いでつい」

「はあ。まあ、その辺は後でな」


 それだけ言って、机の上にへたり込んでしまう。

 そんな真澄の姿が少し新鮮で、不覚にも可愛いと思ってしまった。


「コウ君、全然変わってないね」


 振り向いたその先に居たのは朋美。


「そうかな?」


 実感が湧かないんだけど。


「小学校の時そのまんまだよ。突飛なことをするところも」


 責めているというより、仕方ないか、と言っているようだ。


「コウ君は図太いから心配要らないと思うけど、ますみんのこと気遣ってあげてね」

「それはもちろん」

「さっきのことも含めてだよ?」


 注意されてしまった。


「それは、本当に申し訳ない」


 素直に頭を下げる。


「おっす。さっきの自己紹介、面白かったぜ」

「それはどうも」


 次に話しかけて来たのは、茶髪の男子生徒。長身で、引き締った身体だ。こういうのは何だけど、イケメンと言ってもいい。


「あ、俺はリョータって言うんだ。よろしくな」

「こっちこそよろしく。で、リョータはさ、興味ないの?」

「興味?」

「僕と真澄ちゃんの関係」


 僕と真澄の前には長蛇の列ができていて、質問攻めにするタイミングをいまかいまかと待ちわびている。


「ああ。俺は、あんまりそういうの深入りしない性質だし」

「仲良くできそうで、助かるよ」


 リョータとは仲良くやっていけそうだ。


「一つ忠告だけど」

「忠告?」

「そっちはどうだったか知らないけどさ。人の恋路をネタにするのが好きな奴多いから。その辺、覚悟しといた方がいいよ」

「ありがたく受け取っておくよ」


 正直、ここまで人の恋愛に興味深々な人が多いのは予想外だったので、これからは気を付けなきゃな。


 隣を見ると、相変わらずぐったりした様子の真澄。


 ちょっと失敗したかも。


 そして、飽きることを知らないクラスメイトの質問攻めは、授業が始まるまで続いたのだった。

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