第47話 編入初日・自己紹介

 6月29日の月曜日。

 今日から、期間限定だけど真澄の通う、東津(とうづ)高校の生徒だ。


 いつものように、真澄と朝食を食べて、登校する。今回の行先は同じだけど。


「今日から一緒の学校か。ほんと、楽しみだよ」


 ここまで僕のテンションが高いことはそうそうない。


「そこまで喜んでくれるんは、嬉しいけど」


 少し照れ臭そうにしながら苦笑する真澄。


「そういえば、クラスで彼氏が居る宣言したんだったよね」


 しばらく前の出来事を思い返す。


「こんなことになるんやったら、言うんやなかったわ」

「そんな憂鬱そうに言わなくても」


 冷やかされるのが微妙なのはわかるけど。


「コウは男子校やからわからんやろうけどな。クラスで誰と誰がデキたとか、恰好の話の種なんよ。しかも、同じクラスやからなー」

「そんなに?」


 真澄がこう言うくらいだからよっぽどなのだろう。


「まあええけどな」


 諦めたようにそう言う真澄。

 

 そんな事を話していると、校門が見えてくる。

 女子耐性は、少しはあるつもりだけど、緊張してくる。


 校門をくぐると、周りの生徒から一斉に注目を浴びる。


「あれ?」

「まあ、ウチの方も、交換学生の話は聞いとるからな」


 何か遠巻きにひそひそと声が聞こえてくる。東西のやつが来たとか、あいつらデキてんの?とか、その他色々。制服はこっちのを着ているはずなのに、なんでわかるんだろう。


「少し居心地が悪いな……」

「だから言うたやろ。ま、話題の種が出来て噂にしとるだけや」


 と真澄。

 確かに、いちいち気にしても仕方がない。


 職員室に寄って説明を受けた後、階段を登って、真澄のクラスに案内される。

 さて、どんな歓迎を受けることやら。

 教室の扉を開けると―


「よっコウ」


 先に教室に行っていたらしい正樹。


「おはよ。ますみん。コウ君」

「そういえば、朋美も同じクラスだったっけ」

「コウ君、忘れてたの?」


 朋美に呆れられてしまう。いや、ほんとに申し訳ない。


「そういえば、僕の席なんだけどさ。わかる?」

「ますみんの横」

「え?」

「だから、ますみんの横」

「え?」

「やから、こういうこと」

 

 溜息をつく真澄。


 彼女と同じクラスで隣の席。一見、夢のようなシチュエーションだけど。

 僕たちの関係はクラス中に知れ渡っているわけで。

 なるほど。朝から彼女が憂鬱なわけだ。


「ねえ。これって作為的なものを感じるんだけど」


 事情を知ってそうな朋美に聞いてみる。


「ますみんの隣の席だった女子が、何か思いついたらしくてね。まあ、色々……」


 作為的というより、仕組まれていたと。


「その子も面白がっただけなんだろうけど」

「ほんと、どうしたもんやろね。その内、落ち着くやろうけど」


 また、ため息をつく真澄。

 クラス中のそこかしこから、ざわざわと話し声が聞こえる。

 やれ、中戸の彼氏だとか、一緒に居るために編入を希望したらしいとか、家が隣らしいとか(向かいなんだけど)、幼馴染らしい、とか、色々。一緒に居るためにってのはその通りだから否定できないんだけど。

 なるほど。共学というのは、こういうのが噂になるのか。

 なら。

  

 担任らしい女性の先生が来て、ホームルームが始まる。そこで、がやがやが止まらない辺り、こっちとの違いを感じるなあ。


「本日は、以前から話していた通り、東西高校から、5名の生徒がこちらのクラスに加わります。皆、男子校で、女子に慣れていませんから、そこのところを配慮して、仲良くしてあげてください」


 続いて、自己紹介タイム。そして、運悪くか運良くか、僕が最初の番だ。

 クラス全体を見渡す。真澄の彼氏ということが知れ渡っているせいか、皆が注目している気がする。


「どうも。東西高校から来た、松島宏貴です。趣味は……歴史とかゲームとか色々ですが、インドアといったところでしょうか。ちょっと共学は、色々勝手がわからないので、迷惑をかけちゃうかもしれませんが、よろしくお願いします。あ、真澄「ちゃん」は、僕の幼馴染で、最愛の彼女です」


 どうせ関係を知られているのなら、最初に言ってしまった方がマシだ。そう思ってやけっぱちで付け足した言葉だったが。


「きゃー。真澄ちゃんだって」

「幼馴染で最愛の彼女とか。スゴイよね?」

「真澄の彼氏ってこんな変人だったんだ」

「自己紹介でそれはどうかな……」

「コウ君、ちょっとそれは……」


 そんな女子側の反応と。


「自己紹介でノロけてんじゃねーぞ」

「いいぞ。もっとやれー」

「これじゃ勝てないわけだ」

「コウのことだから、何かやらかすと思ったけどな」


 そんな男子側の反応と。


 そして。


「コウは何しでかしてんのや。しかも、真澄ちゃんてなんや」


 ぷるぷると羞恥に震えている真澄ちゃんだった。

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