第四章 交換学生しよう
第46話 交換学生
6月15日月曜日の放課後。
「静粛に!」
担任の久保田先生が一喝する。これで、クラス全員が一瞬で静かになるのだから、大したものだと思う。
「今日は、重要な伝達事項がある」
事務連絡があって終わりかと思っていたけど、何があるのかな。
「皆も知ってのように、本校は、2年後の共学化を検討中だ」
僕たちの通う私立東西(とうせい)高校は男子校だけど、少子化の影響もあって入学者の数が減っており、共学化の検討が始まっているということは以前聞いていた。
でも、僕たちが卒業した後の話だと思うのだけど。
「一口に共学化といっても、準備しなければならないことは。多い。たとえば……」
女子トイレ、体育の授業、クラス分けなどなど。必要な課題を列挙していく。
なるほど。いきなり共学にしても、色々問題が多そうだ。
「そこで、共学化の準備として、期間限定の交換学生制度……要は、同じ国の間での交換留学制度とでもいうべきか、をすることにした。つまり、他学の女子生徒受け入れと、本校生徒の派遣ということだ」
クラスがざわつき出す。
少数の女子生徒受け入れによって、共学化にあたっての課題を洗い出すということで筋は通っている。
にしても、うちのクラスにも女子が来るのかな。どこの高校だろう。
「ついては、東津(とうづ)高校との交換学生制度を行う予定だ。ここまでで何か質問は?」
真澄の通う高校だ。
彼女と同じ高校に通えたら……時々夢に見ていたことだ。
でも。
「東津高校からの生徒はもう決まっているんでしょうか?」
男子生徒からの質問。
そう。そこが疑問だ。
今朝、真澄と話したときにはまだその話題は出ていなかった。
だから、たぶんまだだと思うのだけど。
「あちらでも、本日から希望者を募る予定だ。まだ、ということになる」
ということは、申し込めば、真澄の通う高校に一時的にとはいえ編入できることになる。
「そして、本クラスからも、希望者を募ることにした。詳しいことは、配布プリントに書いてあるので、内容をよく読んだ上で記入するように。なお、希望者が定員を上回った場合、抽選になる」
クラス中がざわざわする。
僕らの通う東西高校は中高一貫の男子校だ。女子に飢えていっていると言ってもいい。
ただ、だから、諸手を挙げて賛成というわけにもいかないのが複雑なところで。
中学からこっち、女子に免疫の無い奴が多い。
共学に行くとなると尻込みする奴も多いだろう。
真澄と一緒の高校生活を送る、というのは、ちょっと夢見たことがあるだけに、是が非でも申し込みたいところだ。ただ―
『なあ、コウ。ちょっとええか』
丁度いいところに真澄からのメッセージが。
『いいけど。どうしたの?』
タイミング的に、この話じゃないかと思うのだけど。
『ウチの方で、なんや期間限定で交換学生制度?をやるらしくてな。そんで、コウの通っている高校が相手らしいんやけど。何か聞いとる?』
まさにドンピシャだった。
『ちょうどその話をしてたところ。まだ先生が説明してる』
『でや。提案があるんやけど……』
長考を示す文字。何を言うか想像できてしまうんだけど。
『僕がそっちに行くのはどう?』
『ウチがそっちに行くのはどうや?』
ほぼ同時にメッセージが表示された。真澄のことだからそう言うんじゃないかと思ってたけど。
『ウチはコウの学生生活を見たいんやけど』
『僕も真澄の学生生活を見たいよ』
僕が真澄のところに行くか。真澄が僕のところに来るか。正直、一緒に過ごせるならどっちでもいいんだけど、せっかくなら普段の真澄の様子が見たい。
『コウは譲る気はないんやな』
『真澄もだけど。じゃんけんで決めない?』
『ええな。恨みっこなしやよ』
じゃんけんアプリを起動する。指定したユーザと一対一でじゃんけんをするためのアプリだ。
【じゃんけん、ポイ】
アプリのメッセージが表示された後に、手を選ぶ。真澄は初手でグーを選ぶ癖がある。なので、僕の手はパーだ。
『よし、勝った!』
『うー』
別に負けてもそれはそれで良かったのかもしれないけど。
『でも、楽しみだね。通ればだけど』
素直な気持ちを送る。
『せやな』
結局、校風なのか何なのか、希望者が定員を下回ったらしく。
僕は、2週間後の6月29日から、7月17日まで、真澄の通う高校に編入することになったのだった。
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