第43話 幼馴染同士で幼馴染しよう(2)~鈍感主人公とツンデレ幼馴染~

※この話を見る前に、必ず42話を見てください。


 僕は、松島宏貴。私立東西(とうせい)高校に通う2年生だ。そんな僕には、昔からずっと一緒の幼馴染がいる。


 幼馴染、といえば、多くの男性諸君は羨ましいと思うだろうけど、そんなに羨ましいものじゃない。なんていっても―


「コウ、さっさと起きんかい!」


 ほら来た。

 乱暴にドアを開けて、侵入してきたのは、幼馴染の中戸真澄。こうして毎朝いつも起こしに来る。朝くらいそっとしておいてほしいのに。まったく。


「もうちょっと寝かしてよ…。あと5分…」


 まだ眠い僕は、布団に入ろうとする。

 が、布団をはぎとられてしまう。


「ほら。ええから、さっさと支度せい!」


 それだけ言って、出て行った。

 かと思えば、扉の隙間からちらちらと覗いてくる。


「僕の下着でもみたいの?」

「そ、そんなわけあらへんやろ!」


 そうぷんすかと怒って下に降りてしまう。

 なら、見なければ良いのに。そう思ったが、口には出さないでおく。

 

 1階に降りると、そこには既に朝食が配膳されていて、真澄が座っていた。

 今日は母さんは仕事で不在のはずなんだけど。

 ひょっとして…


「ひょっとして、僕のために作ってくれたの?」


 かすかな期待を込めて聞いてみる。


「そ、そんなわけあらへんやろ!これは、そう、幼馴染やから!幼馴染として健康の心配をしてあげてるだけなんやから」


 そうまくしたてる真澄。

 それはわかったから、何もそんなに強調しないでもいいのに。


 ご馳走様の挨拶をして、部屋で登校の準備をする。

 すると、真澄が玄関で待っている。


「あれ、どうしたの?いつもは別々なのに」


 ひょっとしたら、一緒に行きたいのかな。

 そんな期待を込めて聞いてみるけど。


「そ、それはあれや!おばちゃんにコウの世話を頼まれてるからな。仕方なくや!」


 にべもない答え。やっぱりそうだよなあ。


 二人で登校する。別々の中高なので、途中まで一緒だ。

 これが恋人なら、さぞかし楽しいんだろうけど、あいにく、

憎まれ口を叩く幼馴染だからなあ。


「あのな。コウはさ、約束、覚えとる?」


 約束?なんだか、真澄は手元をちらちら見ているけど、意味がわからない。


「何かあったかな。あ、今度ロッ〇リア行こうって話?」


 確か、そんな約束をした気がする。


「これを見てもわからん?」


 そう言って、真澄が見せつけてくるのは、右手の薬指にはめられた指輪。

 指輪。指輪。


「なんだろ。あ、なるほど」

「お、思い出したん?」


 なんだか期待するような視線だ。


「真澄もアクセサリーとかしたくなったんだね?あの真澄が、ねえ」


 ひょっとして……


「彼氏でもできた?」

「あ、あのなあ。ウチはな……」


 何故だかわなわなと震えている。


「ふ、ふん。なんでもないわ!」


 と思ったら、急に拗ねたようになる。なんなんだろう。一体。

 こうして、よくわからない仕草をすることがある。

 言いたいなら、はっきり言えばいいのに。


 二人で黙って歩いてると、唐突に、真澄がお弁当を差し出して来た。

 どういうことだろう。


「はい。コウの分や」


 つっけんどんな声。あの真澄が。本当に意外だ。


「ひょっとして、僕のために?」


 少し期待して聞いてみる。


「そ、そんなわけないやろ。おばちゃんから頼まれたから仕方なくや、仕方なく!」

「どうせそんなことだろうと思ったよ」


 ただ、理由はなんであれ。


「ありがとう。真澄」

「ふ、ふん。そんなこと言っても何も出えへんからな!」


 そっぽを向いてしまう。

 何かまずいことを言ったかな?


 登校すると、悪友の篠原正樹が近寄ってきた。


「よう、コウ」

「おはよう、正樹」


 正樹は、小学校の頃からの親友だ。


「そういやさ、今朝は、中戸と一緒に来てなかったみたいだけど」

「み、見てたの?」


 見られていたことに驚きだ。


「よく、校門の近くまで来てたからよ。中戸は病気か?」


 心配そうな声で訪ねてくる。


「真澄の奴がさ、素直じゃないんだよ」

「おい。やっぱり喧嘩してるんじゃねえかよ。相談に乗るぞ?」


 あ。本気で心配させてしまったみたいだ。失敗失敗。

 事情をサクっと話す。


「事情はわかったがよ……」

「言いたいことはわかるよ。正樹」

「まあ、ご馳走様ってことだ」


 そう言って、去って行く。


――


 お昼休み。真澄の奴が珍しく作ってきてくれたお弁当を開ける。

 そこには。


 白米の上に、「♡」が散りばめられた明太子が載っているではないか。

 横で見ていた正樹も唖然としている。


「この、♡ってどういう意味だろうね?」


 本気で意味がわからないので、首をかしげる。


「いや、おまえマジで言ってるのか。これってどう見ても……」

「どう見ても?」


 何か不思議だろうか。


「いや、やっぱいい。でも、もう少し中戸の気持ちも考えてやれよ」

「どういうこと?」


 それは、嫌々とはいえ、僕のために弁当を作ってきてくれたのは嬉しいけど。

 パク、と一口お弁当を食べる。美味しい。


(あいつ、昔は料理下手だったはずなのに……)


 裏で、料理を頑張っていたんだだろうか。

 いつも口うるさいだけの幼馴染と思っていたけど、努力家なところもあるんだな。

 少し、彼女のことを見直したのだった。


――


 放課後。校門から帰ろうとすると、前には真澄の姿。

 いったいどうしたんだろう?


「こんなところで突っ立って、どうしたの?」

「おばちゃんに、頼まれたからな。仕方なくや、仕方なく!」


 そっぽを向いて、歩き出す。

 

「あのな。お弁当やけど」


 そんな風に切り出す彼女。


「お弁当?」

「どうやった?」

「美味しかったよ。真澄も知らない内に頑張ってたんだね」

「はあ。そんなことやろうと思ったわ」


 何故だか落胆した様子の真澄。


「でも、あの♡は一体なんだったの?」

「ふ、深い意味はないよ。ちょっとデコレーションしてみたかっただけや!」


 少し怒ったように言って、歩き出す真澄。

 ほんとにわからないから聞いただけだったのに。

 

――


 夜。僕の部屋にて。


「なかなか難しいもんやな。ツンデレっていっても」

「真澄の場合、好意が隠せてなかったからね」


 ツンデレは難しい。


「僕はどうだった?」

「50点。ウチがコウのために、ってことにすぐ気づいてるやん」


 確かに。とっさに、まず、僕のために?って考えてしまっていたな。


「鈍感も難しいね」


 お互いに今日を回想する。今日は、幼馴染っぽいということで、

 真澄はツンデレ、僕は鈍感を装ってみたのだけど、

 結果は見ての通り。

 なんだかチグハグになってしまった。


「でも。あの、ツンデレの演技はちょっと良かったかも」


 普段の真澄なら、ぜったいに言わない言葉だけど、

 ちょっとクるものがあった。


「約束への反応はイマイチやったな」

「やっぱり?」


 うまく、「昔の約束に気づいていない」のを演技してみたつもりだったんだけど。


「鈍感の方向がちょっと変やったな。約束の話をしてるのに、唐突に彼氏ができた?はないわ」

「どうやって違う方向の話にするかが難しかったんだよ」


 どうやって、うまく、話題に絡めつつ、約束のことを気づいていない風に振舞うかは難しい。


「ていうかさ。真澄の約束アピールもちょっとね……」

「そんな約束ないんやもん。切り出し方がむずいんや」


 そう言われればそうだ。結論として。


「ウチにツンデレは無理やな」

「僕も鈍感は無理だね」


 そんな結論に落ち着いたのだった。

 こうやって、違う関係性を装って1日を過ごすのも、それはそれで。


「でも、ちょっと楽しいかも」

「たまにならええかもな」


 そんなちょっといつもと違う1日を楽しんだのだった。

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