第42話 幼馴染同士で幼馴染しよう(1)
朝、起こしてもらったその日の夜。
真澄の部屋で、僕たちはちょっとした話し合いをしていた。
「僕たちってさ、いわゆる幼馴染ってやつだよね?」
「せやな」
何を今さら、と言いたげな真澄。
いや、話はここからなんだよ。
「幼馴染同士の恋愛ものってさ、よくあるよね。アニメとか漫画とか小説とか」
「そやね。ウチもよく見るわ。あんまり実際にはないと思うんやけど」
幼馴染同士で幼馴染ものを話題にするという状況に、面白さを覚える。
「それでさ。色々、お約束ってあるよね?朝、起こしに来るとか。小どもの頃の約束とか、家が隣同士で窓から出入りするとか、色々」
「あるなあ。ていうか、最初のは今朝リクエストしたやつやな」
「でさ。ここから本題なんだけどさ。せっかく僕たちは幼馴染なんだし、幼馴染のお約束ってやってみてもいいんじゃないかな?」
自分で何を言ってるんだろう、と思ったけど、せっかくなのだから、ちょっと憧れていたシチュエーションを体験してみたいと思いもある。
「幼馴染プレイ?」
胡乱な目つきでみられる。
「いや、プレイっていうかさ。こう、幼馴染ぽい何かを味わってみたいというか」
なんで、こんなに僕は必死になっているのか。
「コウも何考えとんのか。でも、面白そうやな」
意外にも真澄がノッてきた。
それなら、というわけで、G〇〇gleで検索をして、
色々な「幼馴染のお約束」を調べてみることにした。
・幼い頃の結婚の約束
「結婚の約束か。あったっけ?」
「覚えとらんなあ。あったとしても、お互い忘れてるんやし」
だよなあ。これは今から実行するのは無理か。
同年代が、そういうおままごとをしている横で、別の事をしていたのが僕だった気がする。
・お医者さんごっこ
「お医者さんごっこ、か」
「なんかやらしい響きやよね」
ビミョーな目つきになっている。
「いや、したいわけじゃないよ?ほんとに」
というわけで、これも却下。
・一緒にお風呂に入る
「一緒にお風呂に入ったことはあったよね。小学校3年くらいまで?」
「そやね。男とか女とかあんまり意識してへん頃やし」
これは、意外とありかもしれない。
「でも、今、うちらがやったら、普通にエッチにならへん?」
言われて、状況を想像する。
いっつもそうはならないだろうけど、そういうムードになりそう。
「でもさ。付き合ってからこっち、一緒にお風呂はなかったよね?」
「せやな。じゃあ、これも候補にするか?」
「うん」
これは候補に追加。
・大きくなると気まずい
「あー、これは、普通にあったよね」
「ウチらは、別の進路に行ったしな」
こっちは現実的だけど、既に通り越しちゃってるな。
というか、今更気まずくなっても困る。
・恋人じゃないのに、ベタベタしてる
「これは、どうだろう。恋人じゃないときは、ベタベタはしてなかったような」
「仲は良かったと思うけどな」
「今は……ベタベタ、というか、イチャイチャ?してると思うけど」
ただ、恋人になったからであって、これも違う気がする。
・家族ぐるみの付き合い
「中学校までは、隣近所だから、仲良かったよね」
「今は、ウチもコウの家によくお邪魔してるしな」
言われてみれば、確かに。
「僕だったら、真澄の家で朝ご飯を食べればいいのかな」
「ウチのかーさんなら、協力してくれそうやな」
というわけで、候補にメモ。
・カーテンを閉め忘れてて、「キャー、エッチ」
「真向かいだけど、真澄が着替えてても見えないよね」
「まあ、コウはこんなんやから、見ようとも思わんやろうけど」
何かひどいことを言われてる気がする。
「もしやるなら、望遠鏡とか使えばいいのかな?」
「そこまでいくとただの変態やで」
「真澄も靴下くんかくんかしてるくせに」
「くんかくんかいうな!」
変態的過ぎるけど、ちょっと面白そうかも。
候補に追加、と。
・愛妻弁当
「これは……もう実現しちゃってるよね」
「せやな。まだ結婚してないけど」
「でもさ。♡マーク入り弁当とか、どう?」
「コウはして欲しいんか?」
「ちょっと見てみたい気がする」
「はあ。やってみるわ」
ちょっと胡乱気な表情。
というわけで、これも追加。
・幼馴染は負ける
「負けるっていうか、誰とも争ってないよね」
「せやな。というか、なんでこんなお約束が出来たんやろ」
「確かに不思議だ」
「ちゅーか、これをやったら、ウチが振られるやんか!」
「ごもっとも」
これも却下。
・幼少期に大事なアイテム。相手は忘れてる
「色々プレゼントを上げた覚えはあるけど……見せられたら普通に思い出すよね」
「コウの場合は、ものやなくて、してあげたこと忘れてるけどな」
「うぐ」
耳に痛い。
「真澄に僕があげたプレゼントを見せられて、「?」て返せばいいのかな」
「さすがにわざとらしくなるんやないかな」
難しい。
・ライバルがいる
「ライバル……いたかな」
「コウは浮世離れしとったからなあ…あ」
「なになに?」
何か思いだした様子なので気になる。
「いや、えーわ。今はもう連絡取れへんし」
「気になるんだけど」
・付き合ってることを噂される
「これは、ちょっとあった気が」
「小学校6年にもなると、ありがちよね」
しかし、悲しいかな。
「でも、うちら、別の中高やからなあ」
噂してくれる誰かがそもそも居ない。
というか、もう付き合ってるし。
・世話女房タイプ
「あ、これは、真澄に当てはまるかも」
「納得いかんのやけど」
不満そうな真澄。
「でも、いつも、弁当とか作ってきてくれるよね」
「そこはな」
しかし、素で実現しちゃってるから、少し違う気がする。
・ツンデレ
「真澄がツンデレをするか……」
頭の中で、「あ、あんたのためやないんよ!」と言いながら弁当を渡してくる光景を思い浮かべる。
「これは、ちょっと面白そうかも」
「ありなんか?」
というわけで、これは第一候補に追加。
「ところで、これやるときは、真澄がツンデレしてくれるんだよね?」
「ちょっと演技に自信はないんやけど」
・一緒に寝る
「時々あったよね。おじさんとかおばさんが留守のときとか」
「やな。これも、今やったら、普通に……」
それは恋人同士なので、幼馴染とは違う気がする。
・おもちゃの指輪
「なんや、そういうものをもろたことはあるけどな」
「だね」
「ただ、大切な想い出の品やけど、それ以上の意味はないなあ」
「でも、持ってるんだよね?」
「棚にしまってあると思うけどな。出しとこか?」
「お願い」
これも追加。
・おとなしく、身を引く
「これは、ようわからんね。もし……もしやけど、コウに振られてたら、それは悲しいと思うやろうけど」
「それだけで、どうこうならないよね。いや、付き合う前日を思うと……」
「コウはあのとき面白かったからなあ」
カラカラと笑う真澄。
いや、あのときのことは黒歴史なんだってば。
・学園のアイドル
「どうなの?男子校だからよくわからないけど」
「前に話したけどな。好いてくれる男子はおるけど、アイドルかっちゅうと、そこまででもないな」
「実際、一時期、微妙な空気になってたし」
・アホの子
「アホの子……じゃないよね」
「さすがになあ。ちゅーか、アホの子って言える程……ナツはそうかも」
「地味にひどいこと言ってるよ、真澄」
「それに、アホの子の演技って難しそう」
「真似られる気がせんわな」
・ギャップ系
「ギャップ……どう?」
「ウチは、そんなに変わっとらん…と思う」
「でも、子犬モードのときは」
「やから、その名前を使うんやない!」
またチョップを食らってしまった。
一応、候補には入れておこう。
・ファーストキスの相手
「……一応、聞いとくけど。初めてだよね」
「もちろんな」
「うん。疑ってなかったけど」
・実質同居
「これ、結構良くない?」
「確かになあ。一番まともそうやわ」
「でしょ。数日間なら、頼めばいけそう」
「ウチは大丈夫やけど、おばちゃんの方に話通しといてな」
というわけで、第二候補に追加。
――
色々、馬鹿な話で盛り上がってしまったけど、候補に残ったのは。
・家族ぐるみの付き合い
・ツンデレ
・実質同居
・ギャップ系
・おもちゃの指輪
・カーテンを閉め忘れてて、「キャー、エッチ」
・一緒にお風呂に入る
だった。
「で、これ全部やるん?」
「乗り気のやつだけでいいよ」
「まあ、コウが楽しそうにしてくれるんは嬉しいし。それくらいお安い御用や」
なんだかんだで、僕がリクエストしてくれるのが嬉しいらしい。
こういう話に付き合ってくれる娘が彼女でほんとによかった。
そんなことを思った夜だった。
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