第41話 僕が彼女にして欲しいこと

「コーウー」


 ぼんやりとした意識の中で、彼女の声が聞こえる。


「まだ寝てんのかいな。ウチに頼んだのに」


 なんだかぼやいているようだ。


 むに。なんだか、頬を引っ張られたような。


「まだ起きんのかい」


 首に何か冷たい感触が。って


「て真澄?」

「おはよーさん、コウ」


 なんだか、呆れた目で見られる。

 そういえば、昨日、頼んだんだった。


「あ、ごめんごめん。昨日、目覚ましを頼んだのに」

「ええけどな。で、感想はどうや?」

「ちょっとびっくりしたけど。結構いいかも」


 僕が真澄にお願いしたのは、「朝、起こしに来て欲しい」

 というものだった。


 物語は物語だ、と思っていたけど、

 ああいうシチュエーションにちょっと憧れがあったのも事実なので、

 頼んでみたのだった。


「じゃあ、毎日起こしに来たるな」

「無理しなくても」


 毎朝負担をかけたら。そう思ったのだけど。


「あのな。ウチはもっと頼られた方が嬉しいんや。無理なときは言うから」


 優しく見つめながら、そう諭される。


「じゃあ、これからは毎日、起こしに来て」

「うん。りょーかいな」


 目を見合わせて笑う。あ。なんか、下半身が。


「あのさ。もう一つ、お願い、していいかな」

「なんでもええよ」

「実は、さっきから、真澄のことが欲しくなってきて」


 このシチュエーションのせいなのか、

 「お願いしてもいい」と思えたからのか。


「あ、さすがに今のはムードがないよね」


 慌てて取り下げようとしたのだけど。


「いつでも、ウチはコウに抱いて欲しいと思うとるよ」


 少し恥ずかしそうにしながらも、受け入れてくれたのだった。


 少し強引に身体を寄せて、口づけをする。


「なんか、こんなに強引なコウは初めてや」

「僕も、ちょっと初めてかも」


――


「強引なコウも、良かったわあ」

「満足できたようで、何より」


 服を着ながら、話す。

 朝食の時間も丸々使ってしまったので、早く行かないと。


「にしても、これやったらウチが満足しとるだけやない?」

「僕も良かったよ」

「ならええか」


 そんな朝の一幕だった。 

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