第40話 彼女が僕にしてあげたいこと

「それで、相談ってなんだ?それに、朋美もって」


 時は6月3日の放課後。場所はロッ〇リア。


 僕、正樹、朋美の三人が円テーブルを囲んでいる。


 詳しくは聞いていないけど、あの後、二人は無事に付き合うことになったらしい。


「正樹と朋美って付き合ってるでしょ?」

「そりゃそうだが……」

「いきなり何言ってるの?」


 二人してツッコまれる。

 照れているのが丸わかりだけど、ここは言わないでおこう。


「……でだ。相談ってなんだ?」


 咳払いをする正樹。


「実は、真澄のことなんだ」

「ますみんと喧嘩でもしたの?」


 朋美があわてたように聞いてくる。


「いや。喧嘩はしてない。してないんだ」

「それなら良かった。びっくりさせないでよ」

「ほんとにな」


 ほっと胸をなでおろす二人。


「それでさ。相談なんだけどさ。僕は、真澄に何をしてもらいたいんだろう?」

「えーと、もう1回言って?意味がよくわからなかったよ」

「うーん。どういえばいいのかな。経緯を話すと……」


 そうして、昨夜の真澄との会話を思い出す。


――


 行為の後、お互いにベッドでぼーっと身体を横たえていた。


「なあ、コウ?」


 真澄が僕の方に身体を向ける。


「なに?」

 

「どういえばええのかな……。コウはウチに何かして欲しいことない?」

「どういうこと?弁当は毎日作って来てもらってるし、毎日一緒に登下校してくれてるし、僕と過ごすために部屋を改装までしてくれたし。十分満足だよ」


 真澄が僕のためにしてくれたことを数え上げると、十分過ぎるほど色々してくれていると思う。


「そうやのうて……。そういうのは、全部ウチがコウのために勝手にしたことやん?コウがして欲しいことを言って欲しいんや」

「僕が、して欲しいこと」


――


「というわけなんだ」

 

 僕がして欲しいこと、と言われて、正直困ってしまったので、この二人に相談してみることにしたのだ。


「うーん……」

「……」


 考え込む二人。無理もないけど。


「ねえ、コウ君は、ますみんに何かをして欲しいって言った事ある?」

「え?」


 虚をつく問いだった。して欲しい、して欲しい……


「そこまで難しいことじゃなくて。この服を来て欲しい、とか、自分の行きたいデート先とか、食べたい物とか」


 思い返すと、そういうことはほとんど言ったことがなかった。


「でも、真澄が楽しんでくれるなら僕も楽しいし、作ってくれるものも美味しいし」


 これ以上あれこれ望むのは違うんじゃないだろうか。


「女の子はね。好きな相手に尽くしたいって思う人が多いの。ますみんなんかは、好きでもない相手にも優しくするから、なおさら」

「……そうかも」


 言われてみると。弁当にしても、真澄が作りたいと思って作ってきてる気がする。


「ところで、それって実体験?」

「そ、それはどうでもいいから」


 なるほど。朋美の実体験らしい。


「それでさ。昔から二人を見ていた私としてはさ、コウ君は欲が無さすぎるのよ」

「そこは同感。凄く、いいところでもあるけどな」


 ちょっと考えてみる。


「でも。部活で歴史のことを研究するのは楽しいし、もっとしたいって欲はあるよ」


 むしろ、そういう欲は強いんじゃないかな。


「そうじゃなくて。そうだ。コウ君はたとえばさ、私でも正樹でもいいけどさ、「こうして欲しい」って思うことある?」

「……いや。十分過ぎるくらい助けてくれてるから」


 今だってこんなに相談に乗ってもらっているのに。


「ますみんから聞いてるかもしれないけどね。コウ君は、かなり色々ますみんのことを助けて来てるのよ。自覚ないかもしれないけど」

「何度か聞いたことはあるね」


 ほんとに助けたことなんて、あんまりないと思うんだけど。


「コウ君もね、誰かに尽くしたいってタイプなのよ」


 断言されてしまった。


「ええ?尽くしたいって言うと違うんじゃないかな?」

「……難しいか。コウ君は、「自分のしたことで誰かが喜んでくれたら嬉しい」って思う?」

「それは、うん。でも、誰でもあるんじゃないかな?」


 自分のことしか考えない人というのもいるだろうけど。


「それはそう。でも、コウ君はそれが強いんだよ」

「実感はわかないけど。そうなのかもね」


 朋美や正樹から見てもそうなんだったら、きっと正しいのだろう。


「ますみんもさ、特にコウ君には色々してあげたいんだよ」

「それはわかるけど。部屋の模様替えだって、そのためだろうし」


 初めて、模様替えした後を訪れたときのことを思い出す。

 あれは確かに、僕と一緒に過ごすために、真澄がしてくれたことだった。


「ますみんは、もっと、コウ君に「して欲しいこと」を言って欲しいんだと思う」


 して欲しいこと、して欲しいこと。

 

「横からだけどよ。難しいことじゃねえと思うんだよ。中戸の弁当だってさ、二つ出されて、どっちが好み?って言われたら、そりゃあるだろ?」

「それはね。どっちもおいしいけど」

「服もだ。普段、デートしてるときの服でも、どっちがいい、とかあるんじゃねえか?」

「言われてみると確かに」


 どっちの方がいい、だったらわかる。


「だから、ますみんに、ちょっと「こっちの方がいい」とか「好みの服装を着て欲しい」ってお願いすればいいんじゃないかな」


 今のままで、十分良いと思ってしまってる僕だったら気づかなかった。

 それと同時に、真澄のことを考えているつもりで、そこに気づかなかったのが少し恥ずかしい。


「いや、ほんと。助かるよ。ちょっと考えてみる」


――


 帰った後、一人でぼんやりと考える。


 考えてみれば、弁当でお礼をいったことはあっても、こっちが良かったとか言ったことはないし、エッチだって、最初にお誘いをかけてくるのは真澄の方が多かった。


 エッチの方は、単に自分から誘うのが恥ずかしい、とか、性欲を表に出す

 のは、ってだけの理由だったけど。


 僕は一つの決意を固めたのだった。

 ちょっと恥ずかしいお願いだし、引かれないといいんだけど。

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