第35話 後輩からの誕生日プレゼント

 5月21日木曜日。いよいよ、真澄の誕生日当日だ。


「今日は部活終わったら、僕のとこの校門前で待ち合わせで良い?」

「オッケーや。もうウチの誕生日とは早いもんや」

「だね。放課後、楽しみにしてて」


 今日は、僕も真澄も部活があるので、部活が終わったら校門で待ち合わせて、デートの予定だ。夜は真澄の家族で誕生日パーティだから、デートはそれまで。

 真澄は喜んでくれるかな。

 そんなことを考える。


「そういえばさ。料理部で誕生日パーティーとかやるの?」


 なんとなく聞いてみた。


「そういうんは特に無いわ」

「そうなんだ。共学だと、そういうのやるのかな、とか思ってた」

「去年までは、全員の誕生日をそれぞれ祝うっつうのやっとったんやけどな」

「じゃあ、今年から?」

「付き合いの無い人に無理して送るのはなんか違うと思わん?だから、うちが部長になったときに、それぞれ祝いたい人が祝うって事にな」

「わかる気がする。なんか、小学校の頃、あったよね」

「んー。エリ……エリ……」

「あ。恵理子(えりこ)ちゃんだ!」


 小学校の頃、同級生だった女の子。

 とはいえ、クラスで休み時間に少し遊んだくらいで、

 彼女のことはあまり知らなかった。


 ただ、何故か、僕に誕生日パーティーの招待状が届いて、

 困惑しながらも参加したのを覚えている。


「恵理子ちゃん、どうしてるんだろうね」


 確か、小学校5年の頃に家族の都合で引っ越ししたはず。


「どうしとるんやろね……ウチも連絡先知らんし」


 話が脱線してしまった。


「ともかく。部活はいつも通りってこと?」

「そんなとこや。そな、また後でなー」


―――


 放課後。部活が終了して、真澄が終わるのを待っているところだ。

 と、通知だ。


『今、学校出たとこ』

『了解。外出てるね』


 校門に出てみると、そこには真澄の姿。そして、手提げ袋がある。


「おまたせ。何か荷物が増えてるけど?」

「ああ、それなんやけどな……」


 真澄が語るところによると、結局、部員たちによるサプライズパーティーが企画されていたらしく、部室に入ると、派手にお祝いされたとのこと。


「別にウチは特別なことしたつもりはないんやけど」


 そう少し照れながらいう真澄が可愛い。


「真澄らしいね。いいんじゃないかな?それだけ、好かれてるってことだし」

「ありがとさん」


――


 ところ変わって僕の部屋にて。

 夕食まであまり時間がないので、実は今日は僕の部屋でひっそりと誕生日デートをしようということになっていたのだった。


「あ、そや。ナツからこれもろたんやけどな」


 何か含みがありそうな言い方をして、手提げ袋から、何かを取り出す。


「醤油入れ?」


 できるだけ、何事もなかったように装う。


「しらばっくれてもわかっとるよ」

「え、何のこと?」

「うちがこういうの好きやって知ってるの、コウしかおらんやろ」


 言われてみれば、確かに。


「わかったよ。こないだ、奈月ちゃんと一緒にでかけたときにね」


 素直に白状する。


「そうやろうな」

「でも、奈月ちゃんも一生懸命考えたのは本当だよ」

「そないなことわかっとるよ。コウに相談なんて、遠回しなことするくらいやしな」


 プレゼントを抱えながら、優しげな顔をする真澄。

 少し見惚れてしまう。

 と、何か手紙が落ちていたのに気づいた。


「これ。奈月ちゃんからかな?」


 真澄に手渡す。


「ん?なになに……」


 最初はふむふむと読み進めていたのだけど、読み進める内にどんどん

 頬が上気してきて、真っ赤になっている。

 一体何が書いてあったのだろう。


 すっと、読み終えた手紙を差し出してくる。

 読め、ということだろうか。


「真澄先輩。

 誕生日おめでとうございます。

 これは私のささやかな気持ち……というか、主に宏貴先輩の気持ちですが。

 お二人がもっと仲良く過ごせるようにと願いを込めて、ここに記します。

 こちらが、私からのプレゼントと思ってください」


 そう始まった手紙には、僕がいかに真澄のことを考えて、奈月ちゃんからの

 プレゼントを選んだか、力説しつつ、そのときの様子が描かれているのだった。


 あの子は一体何を考えてるのか。羞恥で死にそうだ。

 ひそかに書いたラブレターを勝手に恋人に届けられたような気持ちだ。


「あの子はほんにもう、勝手なことしよるんやから」


 そんなことを言いながらも、とても嬉しそうな声だった。


「で、でさ。僕のプレゼントはこれからなんだけど」


 羞恥心が限界を突破しそうだけど、なんとかこらえる。


「はい、これ」

 

 鞄から、誕生日プレゼントが入った箱を渡す。


「開けてええか?」

「うん。もちろん」


 真澄が、包装紙を解いて、プレゼントを取り出す。


「湯飲み?」

「うん。ペアで。付き合って初めての誕生日だから、色々考えたんだけど。二人で部屋でゆっくり過ごすときにでも使えればって」


 僕が買ったのは、真澄が好きそうな柄の湯飲み2個。花束とかネックレスとか、色々考えたのだけど、どうしても僕には似合わない気がしてしまったのだった。


「おおきにな。大事にするわ」

「うん」


 喜んでくれているのは伝わるのだけど、さっきの奈月ちゃんからの爆弾には及ばなかった気がして、少し悔しい。


 そうこうしている内に、すっかり周りは真っ暗に。


「あ、そろそろ帰らんと」


 時計を見ながら、真澄がそう言う。

 えーと。こういうのはまだまだ慣れないんだけど。


 少し緊張しながら、肩を抱いて、引き寄せる。


「んっ」

「……」


 少しの間のキス。


「今日はほんとにありがとーさん。その、また後でな」

「うん。また後で……後?」


 そうして、誕生日デートは終わったのだった。

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