第34話 誕生日プレゼントを探そう(後編)

 5月16日土曜日。12時30分。

 

「そろそろお昼だね」

「私もお腹が空いて来ました」


 奈月ちゃんから真澄への誕生日プレゼントを買い終えた僕たち。

 

「どこかで食べていく?」

「そうですね……10Fのレストラン街なんかどうでしょう?」

「じゃあ、そこに行こうか」


 というわけで、ショッピングモールのレストラン街へ。

 お昼どきということもあってか、エレベーターも混み気味だ。


「どこにしようか?」


 レストラン街のショップ一覧を眺めながら、思案する僕たち。


「私はどこでもいいですよ」


 どこでもいいとは言う人は、大体どこでもいいということはない。


「強いて言うなら?」

「うーん。このハンバーグ店とか」


 奈月ちゃんが指差しているのは、少しレトロな赤みがかった外観が特徴のお店だ。

 ハンバーグ店ってこういう外観の事が多いような気がする。


「じゃあ、ここにしようか」


 というわけで、2人でそのお店に入る。


「先輩は何にします?」

「僕は、ハンバーグステーキセットで」

「じゃあ、私もそれで」


 特にこだわりはなかったのだけど、奈月ちゃんも同じようだった。


「そういえばさ。真澄って部活だとどんな感じなの?」


 ハンバーグステーキを食べながら問いかける。


「真澄先輩とそういうこと、話さないんですか?」


 少し不思議そうな奈月ちゃん。


「話すことは話すけどね。謙遜ていうと違うかな。真澄としては、普通に活動してるだけって感じでね。他の人からどういう風に見えてるのかなって」

「うーん。先輩って、料理部が何するか知ってますか?」

「グループに分かれて、料理を一緒に作る、くらい?調理実習みたいなイメージ」


 確か、酢豚とか作ったっけ。


「先輩のとこって男子校ですよね」

「そうだけど」


 何かあったかな。


「男子校にも調理実習ってあるんですね」

「普通だと思うけど」


 授業でやったから、どこでもあるものと思ってたけど。


「そうなんですね。男子校って、もっと変わった場所だとばかり」

「普通じゃないかな。いや、女子がいないのは普通じゃないかも」


 共学の生活は、真澄からよく聞くけど、そこまで変わった感じはしない。

 誰と誰がデキただの、そうでないだの、って話は男子校では滅多にないけど。


「そういえば、男子校って、女子に免疫がない人が多いって感じがします」

「そこは全くその通り」


 正樹や他のクラスメイトや部活仲間を思い出す。


「その割には、先輩は平気そうですよね」

「真澄が居たからかな。他にも、昔の女友達が居たし」


 朋美のことを思い出す。ゴールデンウィークのデートはうまく行ったのかな。


「やっぱり、幼馴染っていいですよね。結婚の約束とか、ドラマティックな感じで」


 何か違う関係を想像されている気がする。


「小学校から一緒だったから、幼馴染といえばそうなんだけど。そんなにドラマチックなものじゃないよ」


 家族同然とか、お互いのことなら何でも知っている、とか、昔の約束、とか、

 近過ぎて恋心に気づかない、とか、

 お話の中で読んだ「幼馴染お約束」を思い出す。

 そういうお約束は僕らの間にはなかった…気がする。


「でも」


 付き合うことになった顛末を思い出す。

 あれは、少し変わっていたかも。


「でも?」


 少し期待に目を輝かせる奈月ちゃん。しまった。


「ついこの間なんだけど……」


 詳細をぼかしながら、その辺りを語る。


「すっごいドラマチックじゃないですか!涼しい顔して、情熱的なんですね~」


 なんだか感心されてしまった。

 情熱的というか、情熱が空回りしたんだけど。


「そういえば、真澄は僕のこと部活で何か言ってた?」

「真澄先輩本人はそんなに話したがらなかったんですが、質問攻めにあったとき、「いつも自分のことを考えてくれてる」とか「昔から助られた」とかそういうことを言ってましたね」


 そういう話を聞くとちょっと照れ臭いな。

 って話が脱線してる。


「で、話を戻すんだけど、料理部の活動って?」

「だいたい似たようなものですよ。違うのは予算があって、その範囲内で色々好きなものを作れることくらいでしょうか」


 そういえば、部の予算については、部長の真澄が色々やっているとか聞いたな。


「真澄は部長だったよね。どういうことしてるの?」

「私もまだ日が浅いんですが……」


 と前置きして、奈月ちゃんが話し始めた。

 新入生勧誘のポスター作成や申請。

 週2の部活での、司会進行役。

 部内でのもめごとの調整。などなど。

 かなり色々なことをしているようだ。

 奈月ちゃんのいう事なので、ちょっと割引かないとだけど。


「へえ。真澄はそんなに色々やってるんだね」

「そうなんですよ。だから、宏貴先輩も支えてあげてくださいね」

「もちろん」


「そういえば」


 奈月ちゃんが唐突に言葉を発した。


「宏貴先輩は、真澄先輩への誕生日プレゼント、決まってるんですか?」

「それはもちろん。ただ、今年はいつもと違うから、気合入れてみたんだけど、入れ過ぎてないか、少し心配かな」

「宏貴先輩なら、もう凄い気合入れそうですね。私の相談にも結局親身になって付き合ってくれましたし」

「真澄を慕ってくれてるし、奈月ちゃんもいい子と思うし」

「いい子って……。子ども扱いしてません?」

「いや、そういう意味じゃなくて」


 そんな風にして、誕生日プレゼント探しの一日が過ぎていったのだった。

 奈月ちゃんのも、僕のも、誕生日プレゼント、喜んでもらえるといいな。

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