第33話 誕生日プレゼントを探そう(前編)
5月16日土曜日。午前10時。
僕は駅前の時計台で、人を待っていた。相手は、真澄の後輩の奈月ちゃん。
真澄に送るプレゼントの相談役として、一緒に店を回ることにしたのだった。
いや、ほんと、僕よりも仲の良い女子に相談した方が良かったんじゃないかな。
そんなことを心の中でつぶやいていると。
「先輩、どうもお待たせしました!」
駅の中から、奈月ちゃんが駆け寄ってくる。
今日はロングヘアを後ろでまとめているようだ。
パンツルックで動きやすい感じの服装だ。
「僕もちょっと前に来たとこだよ……って、何?」
じーっと、僕の服装を上から下まで見る奈月ちゃん。
どこか変だっただろうか?
「ひょっとして、真澄先輩と一緒のときも、そんな恰好なんですか?」
「だいたいはね。どこか変かな……」
登下校の時は制服だから、この格好を奈月ちゃんが見るのは初めてのはず。
さすがに、外で見せるのに恥ずかしい恰好ではないと思うんだけど。
「悪くはないんですけど、色が暗めですね」
「うぐ」
明るい色だと似あわないと思ってたんだけど。
「もうちょっと気にした方がいいのかな」
真澄は別に気にしてないと思うけど、
ちょっと考えてみた方がいいかな。
そんなことを頭の中でつぶやいていたところ。
「あの。すいません。いきなり偉そうなことを言って。そういうのは、真澄先輩がいいなら、とやかくいうことじゃないですよね」
そんな謝罪の言葉が。
「そんなに気にしてないから大丈夫だよ」
特に悪気はなかったみたいだし。
「私、思ったことをついぽろっと言ってしまう悪い癖があって……」
そうしょぼくれた様子で奈月ちゃんは言う。
テンションの上下が激しい子だなあ。
「そんなに気にしてないから。それで、店はあっちでいい?」
駅前にある、11階建てのショッピングモールを指差す。
「……はい。じゃあ、行きましょうか」
そうして、二人でショッピングモールに向かうのだった。
「混んでるね」
足の踏み場もない、という程ではないけど、気を付けて歩かないと。
「週末はいつもこんなですよ」
ここにはたまにしか来ないし、平日のことが多いから気づかなかった。
「奈月ちゃんはよく来るの?」
なんだか慣れてそうだったので、そう聞いてみると。
「そうですね。一番物が揃ってますから」
とのこと。
「それで、どこに行けばいいかな?」
「えーとですね……」
そう言って、バッグから取り出して手帳をめくり出す奈月ちゃん。
今時手帳派なのか。古風だなあ。
「まずは、2Fですね。そこのエスカレーターです」
「了解」
奈月ちゃんの後を着いてエスカレーターを登る。
で、だけど。
「ここって化粧品売り場だよね」
「そうですが?」
何を当然のことを、という顔をしてくる奈月ちゃん。
男の僕にはちょっと居心地が……まあいいか。
「いや、何でもない。それで、お目当ては?」
「この口紅なんですけど」
そう言って、ぽんと渡されたのは、淡いピンク色の口紅。
口紅かあ。
「女子同士だと、口紅をプレゼントすることってあるの?」
そういえば、真澄が口紅をしてきたのを見たことがない。
「仲の良い友達同士なら、ありますよ」
「そうなんだ。でも……」
ちょっと違う気がするんだよなあ。
「でも?」
「いや、真澄が口紅をしてきたことがないなって」
「そうなんですか?」
「僕が見てる前ではね」
「言われてみると、学校でもしていませんね」
とすると、やっぱり趣味じゃない気がする。
「なら、避けた方がいいかも」
「そうします。そういえば、真澄先輩はあんまりコスメの話しませんね」
「香水を付けて来たことはあったかな。他だと、どうかな」
これまで、デートや一緒に遊びに行ったときのことを思い出す。
こないだは、部屋が一変していて驚いたけど、全体的には……
「真澄はさ。なんていうか、渋好みなんだよ」
「渋、なんですか?」
「落ち着いた感じが好きってこと。たとえばさ……」
以前に、僕の部屋にちゃぶ台を取り入れたときの話を語る。
「なるほど。そうすると、化粧品は難しいですね」
「と思うな」
もしかしたら、気に入るのがあるかもしれないけど。
「じゃあ、次に行きましょう」
ということで、別の店に。
「ここならいいかもね」
連れてこられたのは、雑貨屋さん。
小物類は真澄は好きだし、ありな気がする。
「こういうのは、どうでしょうか?」
と、何か縞々模様のボールペンを渡される。
「ボールペンね……いいかも」
真澄と一緒に勉強している姿を想像する。
中学から別だから、一緒に勉強会、なんてしたことはないのだけど。
「真澄先輩とはよく一緒に勉強するんですか?」
「いや、全然」
「?」
「ちょっと、真澄と一緒に勉強会をしたら、どうなるかなって」
奈月ちゃんがドン引きしている。あ。
「ごめんごめん。さっきのは想像で……」
「先輩が真澄先輩のことを大好きなことはよーくわかりましたから。でも、今は私からのプレゼントですよね?」
「いや、ほんと、ごめん」
別の方向に思考が飛んでいたようだ。気を付けよう。
『奈月ちゃんから送られて、真澄が嬉しいプレゼント』を考えないと。
「でも、ボールペンはありだと思うよ。普段使うものだし」
「じゃあ、候補にいれておくということで。次行きましょう」
ハンカチ、 タオル、ポーチ、などなど。色々なものが候補に入るものの、奈月ちゃんにとって決定打にはならなかったようで、気が付けば、だいぶ時間が過ぎていた。
「ねえ、奈月ちゃんは料理部だよね」
「はい」
「だったら、料理関係はどうかな。調味料入れとか」
「なるほど!」
ポンと手を叩く奈月ちゃん。
結局、落ち着いた木目が特徴の、少し高級な醤油入れに決定したのだった。
自分で勧めて、大丈夫か不安になってきたのだけど。
※後編に続きます
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