第23話 お泊りデート(その1)

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※ちょっとわかりにくいかもしれないので、人物相関図です。


松島宏貴<--幼馴染&親友-->篠原正樹

^ ^

| 幼馴染&恋人 | 小学校の頃の同級生

v v

中戸真澄<--幼馴染&親友-->杉原朋美


今回は長くなりそうなので、3~4話くらいに分割します。

――


 ゴールデンウィーク初日の4月29日の朝。今日から真澄と鎌倉旅行だ。

 

 いつもなら、家で待ち合わせて一緒に行くのだけど、せっかくだからということで、地元の駅で待ち合わせることにしたのだ。


 洗面台の前で顔を洗って、髪を整える。普段ならもっと適当なのだけど、今日はちょっと気合を入れてみた。


 スポーツバッグを確認して、忘れ物が無いことをチェックする。うん。大丈夫。


 リビングに行くと、珍しくこんな時間帯に父さんがソファで本を読んでいた。


「あれ。父さん、珍しいね」

「普段不規則だから、たまにはと思ってな」


 父さんはプログラマだ。仕事柄、生活時間が不規則なことが多いけど、結構気にしていたんだ。


「そういえば、今日から真澄ちゃんと旅行だったな」

「うん。ちょっと鎌倉まで。明日の夜までには帰ると思う」

「そうか。楽しんで来なさい」


 本を読みながら、淡々とそう言う。父さんは、読書に集中しているとき、いつもこうだ。母さんみたいに冷やかされても困るけど。


「じゃあ、行ってきます」


 今日から2日の旅行に胸を躍らせて、我が家を出発したのだった。


 時刻は9時30分。待ち合わせは10時だから、まだ30分もある。東京へ行く電車は本数が少なめだから、早めに出たのだけど、少し早すぎたかな。


 待ち合わせ場所の時計台前に行くと、見慣れた顔が。


「あれ、正樹」

「あれ、コウじゃねえか。どうしたんだ」


 意外な遭遇に、二人揃って目を丸くする。

 まあ、隠すことじゃないし、いいか。


「今日は真澄とちょっとデートに」

「かー、いいねえ。二人でお泊りかー」


 あれ?なんで泊まりってわかったんだろう。


「なんで、泊まりってわかったの?」


 僕はデートと言っただけなんだけど。


「いや、お前のその荷物を見ればわかるぞ」


 僕のスポーツバッグを指差してそう言う。


「あ、そうか……」

「まあ、そういうことだ。ここで待ち合わせか?」

「うん。そういう正樹は?」


 そう聞くと、何故か途端にバツが悪そうな顔になる。あれ、どうしたんだろう。


「ああ、その、だな……」


 なんだか頬をぽりぽりと書いて言いづらそうにしている。

 よく見ると、いつもはもっと適当な服装だけど、

 妙に気合を入れている感じだ。


 ということは……


「ひょっとして、デート?」

「……」


 図星だったらしい。


「まあ、そういうことだ」

「おめでとう!朋美とデートまでこぎつけたんだね」


 そう祝福した。


「ああ。ありがとよ……って、なんで杉原とだってわかんだよ」

「いや、だって。こないだ言ってたでしょ」


 正樹が朋美のことを気になってたことは先日聞いている。


「あー。そういえば、そうだな。言うんじゃなかった」


 後悔したように、そうため息をつく。


「いや。別に邪魔とかしないから。にしても、奇遇だよね」


 同じ日に同じ場所で待ち合わせて、お互いの親友同士がデートとは。

 そんなことを思っていたその時。


 手を振りながら、遠くから真澄が駆け寄ってくる。

 なんだか珍しくはしゃいでるな。


「ふう。はあ」

「お疲れさま。別にそんな急がなくても良かったのに」


 今日は朝から晴れていて、少し暑い。額にも少し汗が浮かんでいる。


「それはそうなんやけどな。なんとなく」


 それだけ楽しみにしていたということだろうか?ふと、真澄の身体をまじまじとみる。水色のワンピースは、普段の彼女とは違うイメージだけど、よく似合っている。


「ワンピースって珍しいね」

「せっかくの旅行やし。似合うとる?」


 伺うような声。


「ちょっと普段とイメージが違うけど、これはこれで」

「うーん。期待してたのと違うたけど、まあええか」


 なんとなく納得したらしい。

 すると、横から。


「おう。中戸。久しぶり。見違えたなあ」

「ん?篠原やん。なんでおるん?久しぶりやなあ。背高うなった?」

 

 なんとなく挨拶を交わす二人。小学校を卒業して以来、二人は会ってないはずだから、ざっと4年ぶりといったところだろうか。地元だからすれ違ってもおかしくないのだけど、そこは縁だろうか。


「あー。ちょっとデートでの待ち合わせでな……」


 微妙に言いづらそうな様子だ。


「確かコウと同じ高校に通っとるんよね。どこか別の高校の子?」


 無邪気にそう質問する真澄。あ、そういえば、正樹が朋美に片想いをしていることをこいつは知らないんだった。


 助け舟を出そうとしたその時。


「篠原、お待たせ!」

「ああ、いや、そんなに待ってねえけどよ」


 ちょうど正樹の待ち合わせ相手である朋美がやってきたのだった。

 傍から見ていると、どちらも少し緊張しているみたいだ。


「あれ。トモやん。どうしたん?」


 真澄はまだ状況がわかっていない様子だ。二人の関係は話していなかったから、当たり前か。


「えーと、どう説明したものかな……」


 かいつまんで、朋美と真澄に状況を説明する。

 聞き終えた真澄は一言。


「そんなん知らんかったわ。せやけど……」


 思案顔になったかと思うと、僕に耳打ちしてくる。


(トモと篠原は付き合うとるの?)

(いや、まだみたい。正樹の方は朋美が好きみたいだけど)

(納得いったわ)


 ようやく状況が理解できた様子の真澄。と思ったら、何やらスマホで何かをしている。同じく、朋美もスマホで何かをしている。どういうことだろう?


 操作を終えた真澄は、こほんと咳払いをして。


「ま、まあなんや。二人ともうまいこと行くとええな」


 そんな励ましの言葉を言ったのだった。真澄も微妙な空気を感じ取ってか、少し声色が弱い。


「う、うん」

「あ、ああ」


 ぎこちない返事をする僕たちの親友二人組。まだうまく行くかわからないのに、色々微妙な気持ちなんだろう。


 と思っていると、真澄からメッセージの通知が来た。近くに居るのになんでだろう。


『二人の空気が微妙になる前に、はよいこ』


 言われてみれば確かに。


 早く離脱して、二人きりにしてあげるのが先だろう。


「じゃ、うちらは行くから」


 そんな言葉を残して、僕たちはそそくさと駅に入ったのだった。


 駅構内に入るなり、一息。


「はー、びっくりしたわ」


 と真澄。


「だよね。こんな偶然が重なるなんて」


 いくら近くに住んでいるとはいえ……。

 しかし、真澄のこういう気の遣い方を見るのはとても懐かしい。中学高校と僕たちは別だったから、小学校以来、こういう面を見たことはなかったのだった。


「ところでさ、二人はうまく行くかな?」

「さっき聞いたんやけどな。トモもまんざらでもないみたいやわ」

「え。いつの間に……」

「さっきLI〇Eでな」


 それで、先ほどのスマホを操作している理由に納得が行った。しかし……


「真澄、割と器用だね」

「なんや、うちが不器用みたいやんか」


 真澄がじーと睨んでくる。本気ではないので、全然怖くはないけど。


「いや、そうじゃないけど。なんていうのかな。中学に入った後は、僕は真澄と二人のときの姿しか知らないし」


 もちろん、遊びに行ったときに、そういう世間話をすることはよくあったけど。


「言われてみるとそやね」


 納得したようだ。


「でも、うまく行きそうなのはほっとしたよ」


 デートにこぎつけたからとはいっても、朋美の方の気持ちはわからなかったし。


「そやな。まあ、大丈夫やろ。ウチらはウチらで楽しまんと」


 そう言って、笑顔で手を差し出して来る真澄。

 僕はその手をぎゅっと握り返したのだった。


 そして、鎌倉行きの1泊2日の旅が始まるのだった。

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