1-28 旅支度を終えて
夜が明けた。
俺はプレイヤーの特権で、一瞬で深夜の睡眠時間をスキップして朝を迎える。
フィーナはいつも通り自分のベットで眠っているようだった。
あれから結局、俺はフィーナの採寸をさせてもらえていない。
事情を説明したところ、フィーナが自分で採寸をしてそのデータをくれたのだ。
このサバイバルな生活を行う中で、採寸に関してはデータの受け渡しOKっていうあたりご都合性が出ている。
まぁ、便利なんでそれでいいんですけれど、初見プレイでも気付けるように何かヒントがあると嬉しいなぁ。
そしてデータを受け取ってから、いや…正確にはフィーナに事情を説明している時からだろうか。
何故かちょっと蔑まれる視線でフィーナに見られていた気がするのだ。
何故だろう。
完全に理由がわからない。
説明が終わったとも言葉少なく「…そうですか」と小声で呟いて、隣の部屋に行って採寸データを俺にくれた。
そのまますぐにベッドに入って眠ってしまい、結局鎧の完成品を目にしていない。
俺としては頑張って作ったのだから、完成の瞬間とかに喜んで欲しかった…。
布団の中でまだ眠っているフィーナを横目に、俺は昨晩作った道具の確認をする。
フィーナに集めてもらった大量の綿から作った寝袋。
気付いたら作成可能の部分にあったから作った、半魚人の革の雨よけ布。
そして、専用装備である【フィーナ】の革の鎧。
食糧もたいまつも十分な量がある。
資材もある程度在庫が揃っているから問題ない。
武器は石の棍棒くらいだから原始的な戦いになるが、元より極力戦闘は避けるつもりだ。
つまり、必要なものは昨晩のうちに揃った。
旅立ちは早ければ明日になるだろうか。
俺はまだすやすやと寝息を立てて眠っているフィーナの横顔を眺める。
なんとしてもフィーナを故郷に送り届けてやりたい。
希望じゃない。断言しなければダメだ。
俺はフィーナを絶対に無事に故郷へ送り届ける。
だから。
旅から帰ってこの家に戻る時、俺一人はきりになってしまう。
それが一番、幸せな形なのだ。
「………」
眠るフィーナを見つめた後、頭を軽く撫でてから、俺は食事の用意を始めた。
◆
「旅に必要な道具が全部揃ったよ」
「え、本当ですかっ!?」
朝食のホワマリンを貪り食べるフィーナを前に俺がそう宣言すると、フィーナは驚いた。
「で、では、いよいよ旅立つのですね…!?」
「あぁ、そうなるな」
「もう今日にでも出かけますか?私、すぐに用意できますよっ」
鼻息荒くやる気を出してくるフィーナ。
「流石に今日は急ぎすぎかなぁ。明日の早朝にしようと思うんだけどどうかな?」
「大丈夫です!私はお世話になる身なので、ゲンキさんのタイミングに合わせます!」
「そっか、ならそれでお願い。後、今日の昼間はまた外で使えそうな素材がないかを探してくるね」
俺もまだ気になることが一つあった。
明日旅立つというのなら、今日中にその確認もしないといけない。
「はい、わかりましたっ。…でも、ゲンキさん、気をつけてくださいね?」
「うん、わかってる」
フィーナの心配に素直に頷く。
流石に昨日の今日では信頼が薄いのも止む無いことか。
そして最後にもう一点、重要な話をフィーナに振った。
「旅立ちの前日ってことで、今夜はご馳走がいいよね?」
「あ!それでしたら私、取っておきの木の実がありますよ!あまり数がなくて大切なものだったのですが、ちょうど良い機会ですから使っちゃいましょう!その木の実をすり潰してホワマリンの身の内側に刷り込むとですねー…」
「あー、いや、その折角なんだけど、それは旅に持ってって道中で食べさせてもらえると嬉しいかなー?」
早口になってきたフィーナの言葉に俺は意見を挟み込んだ。
「え、でもゲンキさん、今日はご馳走が良いと言ってたじゃないですか?」
「まぁ、そうね。確かに言ったんだけど、そういう意味じゃなくて、今夜は俺が作るって言いたかったんだ」
「ゲンキさんが、ですか?私は別に構いませんが…」
「じゃあ、今夜の食事は任せてくれよな。美味しい料理を作るからさ」
「はいー」
ククク。
フィーナはホワマリンなら自分の方が調理に長けていると考えているようだった。
だが同じ食材を使用してくると考えいる時点で既に甘い。
所詮は年端も行かない少女の発想よ。
何しろ、俺にはこれがあるからなぁ。
アイテムボックスの生肉を見つめて、俺はニタリと微笑む。
「…なんか今のゲンキさんは嫌なゲンキさんですね」
「え!?どういうこと!?」
思わずアイテムボックスを閉じてフィーナを見返してしまう。
「笑い方が変態っぽかったです」
「笑いが!?」
「はい、笑いが」
それって生理的に無理と言われているのに近いのでは!?
「ふふ、冗談ですよ」
ショックを受けている俺が可笑しいのか、そう言うとフィーナはクスクスと笑っていた。
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