1-27 真っ赤っか



赤かった。

画面全てが赤かった。

真っ赤真っ赤の大惨事だった。


『…ん……ゲン……さぁぁ……ん』


水中にでもいるような、輪郭のボケた声がうっすらと聞こえる。

俺の画面は変わらず真っ赤で、身動きもロクにとることができない。

これは流石にちょっとやばいんじゃないだろうか。


そう思った矢先、VRヘルメット内部の画面も音も一瞬にしてクリアになった。

周囲を見渡す。俺の家だった。

俺は自分のベットの上に顕現していた。


「ゲンキざぁぁぁん!!」


突如のフィーナの大きな声に俺は驚いて振り返る。

見ればフィーナが自分のベッドの近くでへたり込んで、大きな声で泣いていた。


「ゲンキざぁぁぁん!?どこ行っちゃったのですかゲンキざぁぁぁん?」


へたり込むフィーナの周囲には散乱した釣具やスコップがある。

ひょっとしてこれ、死に戻りしたパターン?


「ゲンギざぁぁん!!ごめんなざいぃ!う…うぅ…うああぁぁぁん!」


また泣いちゃってこの子は全く。

俺はフィーナを慰めようとしてベットから飛び降りる。

すると近辺にあったアイテムが自動で俺へと吸い寄せられて、アイテムボックスへと収まった。


「え…え!?」


ちょっとした超常現象に気付いて、アイテムを目で追ってフィーナは振り返った。

その顔は涙に濡れてビシャビシャのグシャグシャだ。


「よっ!」

「…!!ゲ、ゲ…ゲンギずぁぁぁん!!!」


何事もなかったかのように、片手を挙げて会釈をすると、フィーナは涙を流しながら俺の胸に飛び込んでくる。


「ゲンギずぁぁぁん!!あぁぅぅぅぅ!!」


はっはっは、こらこらこいつ。

俺は飛び込んできたフィーナの頭を撫でてやる。

て言うか、今日俺が帰ってきたときにもこんな感じのやりとりをしたような気がする。


「あぅぅぅ…!ごべんなざいぃ…!」


同じように涙を流して心配されている。

でも今度は不思議と俺の心に沁み入る感じが全然ない。

なんでだろうと思ったときに、簡単に答えに思い当たる。

先程と今とで決定的に違うところが一つある。

お気づきだろうか。



さらに言うと、殺害犯は今俺の腕の中にいる人。ちょっとしたサスペンスホラー感じる。

本人としても過失で後悔しているのだろうけど、おかげさまで俺としては感動はしないし実に複雑な感情でフィーナの後頭部を撫でる。


「フィーナ、とりあえず顔を上げてな?」

「うぐっ…は……はい…」

「とりあえず俺は大丈夫だから」

「は…はいぃ…よがったぁぁ…!」

「うんうん…」


俺はフィーナの嗚咽が落ち着くのを待つ。


「もう大丈夫?」

「……はい、お見苦しいところをお見せしました」


スンスンと鼻を鳴らしてまだちょっと鼻声だけど、ほぼ普段のフィーナだった。


「良かった」


本当によかった。

俺も安心して告げられる。


「じゃ、服を脱ごうか?」

「えぇ!?」


俺から一足飛びに距離を取って、俺をムーっと睨むフィーナ。


「ゲンキさんはどうしてそんな馬鹿なんでずか!」

「そんな、馬鹿じゃないぞ!?」

「馬鹿ですっ!」


生死の狭間を行き来して、結局死んで戻ってきたら馬鹿呼ばわりって酷くない?

さっきから泣いたり安心したり不機嫌になったり、全く女の子は忙しい。


「だ、大体!そんなに、し、し…したいなら…もうちょっと言い方と言うものがあるはずです!」

「言い方…だと!?」

「そ、そうです!そう言うのはそれこそ紳士なら、もっと別の誘い方があるはずです!!」


…そう言われてみれば、フィーナの指摘はもっともかもしれない。

俺はフィーナに断片的な情報しか与えていない。

出来るだけ簡潔に分かりやすくと考えた結果だったが、逆に簡素に過ぎて相互理解が足りていなかったといえば確かにそうだ。

もっと懇切丁寧に訴えなければいけないんだ。


「そ、そうだったのか…」

「はい、絶対そうです。ゲンキさんは焦りすぎです!」


焦っていた。確かにそうだ。

フィーナの安全を想うばかりに俺は一方的に…!


「だから、こう言うのはもっと時間を掛けてお互いを知ってからでも遅くありませんので…」

「わかった!そしてすまなかった!」

「い、いえいえ、分かって頂ければ…私もその…徐々に…と思いますし…」

「じゃあフィーナ、今から俺の気持ちを改めて伝えるから聞いてくれ」

「えぇー!?」


とてつもなく驚くフィーナ。


「は、早すぎます!?私の言ったこと聞いてましたか!?」

「聞いていた!俺は言い方が全っ然駄目だった」

「確かにそう言いましたけど…!」

「だからこれから心を込めて伝える!聞いてくれ」

「ふぇ!ふぇぇ!?」


フィーナは顔を赤くして困惑し始める。


「男の前で衣服を脱ぐことに抵抗があることはわかる!それでも押してお願いしたいんだ!頼む!フィーナ!」

「…っ!!」


観念したようなフィーナの表情。

手応えがある。ここまできたらあともう一押し!


「鎧を作るために採寸をさせてくれ!!」

「……は、あ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る