1-26 せいしをかけて


寝支度をしてベットの上にいるフィーナの前に立ち、完璧な仕草で要望を伝える。


「……ぇ?」

「…」


……伝えた、はず。

何と言われたのか理解できないのか、キョトンと俺を見返してくるフィーナ。

俺は笑顔のままフィーナの瞳を見つめ続けているが、なんだか心の内側で焦りが燻り始めている気がする。


しばしの間。


「…はぇぇぇ!?」


そして慌てて手元の布団で体を庇って驚きのリアクションをとるフィーナ。

んー、まぁ普通そうなっちゃいますよねー?

知ってた。

知ってたけどぉ。


「え?え?え?それって?え?どう言う…?」


慌ててるフィーナ可愛いやんって思ってたら、ぺろって狼の舌舐めずりの動きが入った。

狼男の待機モーションだ。

それを見てビクって更に身を固くするフィーナ。


仁王立ちする狼男がこのタイミングで舌舐めずりって、絶妙にイヤらしい待機モーションですねぇぇ…!

空気を読まないこのモーションほんと無くしたい。

愛らしい狼男の動きと思ってるんだろうけど、これ警戒感しか与えたことねぇぞ。

モデリングしたやつの責任を問い詰めたい。


「えっと、誤解しないでほしいんだフィーナ。これはとても大事なことでね…」


会話の途中にも関わらず『ぺろっ!』とまた出る舌舐めずり。

ビク!っと更に身構えるフィーナ。


待機モーションのくせに俺がアクションしてる時に出てくるのなんでかなぁ!?

逆方向に空気読んでる!

どうなってんのシステムゥゥ!


「あ、あのあの……ゲンキさん…そう言うのは私あの…まだその…!」


ベットの上で布団だけを頼りに、小鹿みたいにプルプル震える赤ずきんちゃん。

まあずきんは被っていないから実際は金髪ロリの女の子だけど、童話ならここで狼に食べられちゃうんだろう。

確かにこれは嗜虐心を唆られる光景だ。

狼が食べたくなる気持ちも理解できないでもない。


だが!

俺は誓ってそんなことはしないから安心して欲しい!

何故なら俺は大神フィーナ様の神兵であり、尚且つ金髪ロリ女神フィーナを見守る一人の紳士なのだから!


「いきなりこんな話でフィーナが驚くのも無理ない。わかるよ」


動揺しているフィーナを落ち着かせるために俺は両手を広げて語り始める。


「でも決してフィーナに酷いことをしたいと思っているわけじゃない。それはわかってくれるよな?」

「……は、はい……。ゲンキさんは、悪い方ではありませんが……」


まだどこか疑うような視線ではあるが、おずおずと答えてくれるフィーナ。

よしよし、悪くない感触だ。

ここは流れに乗って警戒心を解くため、一気呵成に友好度を主張するべし!

全てはフィーナの(服を脱がす)ために!


「うん。フィーナは優しいな。…俺はそんなフィーナのこと好きだよ」

「へぅ!?そ、そうなのですか……!」


俺はフィーナの瞳を見つめながらコクリと頷く。


「ふあぁ……!」

「…フィーナは俺のこと、嫌いか?」

「へ!?き、嫌い……ではないですし…割とその…す…すき……ですけど……」


今だ布団で体を隠して戸惑いながらも、チラチラと俺を見て控えめに答えてくれる。


「ありがと。それじゃあ、俺がお願いすることもフィーナのために言ってるって、わかってくれるよね?」


俺の問いかけにちょっとだけ俯いて考えて、困り顔ながらも頷いてくれた。


「で、でも…色々飛ばして……いきなり、ふ、服を脱ぐのわ…その…早すぎるように……!」

「違う。違うんだよフィーナ」


俺は両手をフィーナの肩に掛けて迫る。


「ひゃっ、はいっ…!な、な、何が違うのでしょうか……?」

「俺はフィーナが嫌がることは絶対にしない!」

「は、はいぃ…」

「だから安心して(服を脱いで)欲しいんだ」

「じゃ、じゃあ……服を脱ぐの…ちょっと嫌なので……やめましょう……?」

「ん、わかった!」


わかった、やめましょう!

嫌なことはしないからね!

…ん?


「……」

「……」


って、あれ?

おや?

ひょっとして今、論破された?

確かに嫌なことはしないと言った。

でもそう言うことじゃないんだけど。

でもあれ…完全に論破されてる?

俺はフィーナの両肩を掴んだまま思考停止に陥ってしまう。


「あのあの!」


その空気を気まずく思ってか、フィーナが大きな声を出してきた。


「でも…!その…!今は嫌……なんですけど……!」


布団の端を両手でモジモジと弄りながら、耳まで赤くなった顔でフィーナが続ける。


「あのでも別に!ぜ……絶対ってわけじゃなくて…その…これから先もずっと嫌って言うわけじゃなくて…そのぉ……」

「…絶対嫌ってわけじゃない?」

「…は…はぃ……」


俺の真っ暗闇の思考の中に、一筋の光が差し込む。


「絶対に嫌ってわけじゃない?」

「そんな……何度も言わないでくださいぃ……!」


真っ赤になったフィーナが両手を突き出して俺を押す。

俺はと言うと、解決の糸口を掴んだ手応えを感じていた。


『絶対に嫌じゃない』なら。

それは『嫌じゃない』ってことですよね?

そうですよね?

そう言うことですよね?

ね!?

…ヨシッ!

取ったぞ、その言質っ。


「フィーナ…」

「もー、なんですかーっ」


テレテレとして返事をするフィーナ。


「とりあえず脱いで」

「えぇー!?」


俺の一言で少女は再び絶望に落ちた。


「ど、どうして!?どうしてそうなるんです!?」

「これは命にも関わる必要なことだからだね!」

「い、い、生命…!?だ、だから!そう言うのはまだ早いです…!!」


先ほどよりも厳重に布団にくるまり身を守るフィーナ。


「それに嫌って言ったじゃないですか!?」

「絶対嫌じゃないなら、嫌じゃないよね?!」

「そう言う意味じゃありません!」


くそっ!やはり抵抗が強い。

だけど俺は怯むわけにはいかないんだ!

もう旅立ちの日は近い。

ここで脱がせずいつ脱がす!

頑丈な革の鎧を完成させてフィーナの命を守るため、なんとしても今夜採寸を取らねばならないのだ!


「ひ、酷いです!脱がなくていいと言ったじゃないですか!」

「生死に関わるんだ!詳しくは後で話すから、今は取り敢えず脱いでくれ!」

「せ、せ、せい…!?」


俺は一歩踏み出しフィーナに迫る!


「やあぁぁ!やですー!へ、変態!!変態です!!」

「変態じゃない!俺は紳士であり神兵だ!」

「意味がわからないです!?変態です!嘘つきの変態ですぅー!!!」


わかってくれとは言わない!

なんと言われても構わない!

どんな誹りを受けても良い!

それがフィーナのためならどんな汚名だって被るさ!


両腕をワキワキと動かしながらにじり寄る俺!

フハハ、逃げ道などなかろうて!


「ひぃぃ!!変態ですぅぅー!!」


フィーナは叫びぶと、枕元の近くに置いてあった愛用の石のスコップをベッドの脇から引っ張り出した。

それを片手につかんで振り回し、遠心力のよく働いたスコップの先端部分を俺に向けて振り下ろしてくるところまで確認できた。


その次の瞬間には、俺のVR越しの画面は真っ赤になった。

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