1-15 お手軽ステルス講座
約束を交わした後、俺とフィーナは外に出て旅に出るための用意を始める。
旅支度は色々必要になるものがあって、その収集もしなければいけない。
だが、その前にまず身を守るための方法をフィーナに教えたかったのだ。
「じゃあ、よく見てて!」
「はい、お願いします!」
俺は地面にカーソルを合わせてコントローラーのボタンを押す。
毛むくじゃらの手がショベルを持って地面をガシガシと掘って、ものの数秒で土が捲れ上がって素材ブロックが飛び出してくる。
掘っていた場所には大体1m四方の穴が出来上がっていた。
俺は同じ要領でもう一段掘り進めて縦穴を深くする。
「これで穴が掘れたな」
「はい、素早いお仕事です!」
「ではフィーナ、この穴をどう利用するかわかる?」
「え・・?えっと・・・」
いきなり問題を振られて混乱するフィーナ。
「お、落とし穴ですか?」
「残念、違います。正解はこうです!」
俺は自分で掘った穴の中に入り、しゃがんで手にした土ブロックで天井を塞いだ。
フィーナの「あぁ!!」という驚く声が土越しにくぐもって聞こえてくる。
ふふふ。
さっき考えた俺の思い付きに驚いているようだな。
これはモンスターの視界から完全に隠れる事によって危機をやり過ごすという悪魔的発想!
ショベル一本で実現できるお手軽土遁の術よ!
俺は適当なところで頭上の土をショベルで崩して外に出た。
フィーナが不安そうな顔で俺を見つめてくる。
「どう。わかった?」
「は、はい。・・・・あの、蓋付きの落とし穴ですよね?」
「ほうほう・・・蓋付きね」
何だか俺の思った通りの返答ではなかった。
「それで?その落とし穴でどうするの?」
「落ちた後、土をかけて生き埋めにして窒息死させるのですよね・・・?」
「何でやねんっ」
「え!?す、すいません!」
「それ、今の練習の流れだと、俺が自ら窒息死する流れになっちゃうじゃないっ」
「そうです、だから危ない!と思ったのです・・・!」
「あ、そういう感じ?それでさっき驚いてた感じ?」
あの叫び声は俺が穴に落ちて人身御供になるかと思っていたわけか。
俺は咳払いをしてからフィーナに説明を始める。
「いいかフィーナ、これは相手から姿を隠す技だ」
「そ、そうなんですか?」
「そうだ。これで身を隠せばモンスターにみつからないでやり過ごせる。ついでに空気も大丈夫だ」
「あぁ、なるほど!」
「じゃあフィーナ、俺と同じことをやってみて」
「は、はい!」
俺が持っていたショベルをフィーナに渡して穴を掘らせる。
「えい!」
ザクッとショベルを地面に突き立てて、再びショベルを持ち上げて地面に突き立てる。
「えい!えい!」
繰り返される掘削作業。
しかし、俺の時とは違い土はまるで掘れる様子がない。
「えい!えぇい!」
かなり長い時間地面へショベルを振り下ろし続けて、ようやく変化が見えてくる。
ヒビのエフェクトが出始めたのだ。
「えい・・・!えい・・・!えい・・・!」
ボコッ!
ついにフィーナの努力が身を結び、一つ目の土が掘れた。
当人は肩で息をしてかなりお疲れの様子だが、まだ1つ分しか掘れておらず、もう一段掘らないと身を隠すのに十分な深さが確保できない。
フィーナは手にしたショベルを握り直し、2つ目の穴を掘るために力を込めようとする。
「あー、でもごめん、一旦ストップしよう、フィーナ」
「はぁ、はぁ・・・は、はいぃ・・・」
地面を掘って咄嗟に隠れ場所を作成するというのは、フィーナの掘削速度では到底実用ではなかった。
一緒に家作りをしてた時から何となく感じてはいたが、俺との差がここまであるとは予想外だった。
どうやら狼男という種族にかけられた体力の補正は相当大きいようだ。
「あ、あの・・・次はどうしま・・・しょうか・・・」
まだ呼吸が整わずに切れ切れに俺に問いかけてくるフィーナ。
「うーん・・・とりあえずわかった事がある。土を掘るのはフィーナには向いてないね」
「えぇー!・・・って、実は、私も意外ではないです・・・やっぱりそうですよね」
「あぁ、見込みが甘くてごめん」
「いえ、私の力が弱いせいですので・・・」
「大丈夫、こんなのやり方を変えれば大丈夫だよ。次からはこうやろう!」
俺はフィーナからショベルを受け取って穴を掘り始める。
瞬く間に俺とフィーナの二人が入るサイズの穴が掘り上がる。
「俺が穴を掘る!そしてフィーナは飛び込んで土で蓋をする!」
「・・・はい!!」
「よし、これをこれから毎日10セットやるぞ!」
「はい!お願いしますっ!」
◆
その日は特訓10セットをしているうちに日が暮れてしまう。
まぁ、フィーナがホームシックになったり、最初特訓の方針が決まってなかったりで手間取ってしまったのでしょうがない。
食事を終えるとフィーナは疲れですぐに寝入ってしまう。
俺も続いて就寝すると、視界が暗転する。
そして睡眠時間をスキップさせて即座に目を覚ました。
ベットから起き上がると、さっきまで真っ暗だった窓から朝日が差して、美しい湖がよく見える。
フィーナはまだベッドの中ですやすやと眠っている。
取りあえず起き抜けにフィーナのベットへ歩いて、お尻を一回突いてみる。
するとフィーナは寝返って俺の方を向いてきた。
「!?」
言葉にならない衝撃とともに俺は身構えるが、そこにはムニャムニャと寝言を言って寝ているフィーナがいた。
肝が冷えたけど・・・バレてないから取りあえずヨシ!
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