1-14 白花の約束
「・・・無茶なことを言っているのは、わかっているんです」
俺が奉納した二匹目のホワマリンを平らげた後、ようやくフィーナはポツポツと話し始めてくれる。
「帰る場所がどこにあるのか、方向も何もわからないんじゃ、どこにも行くことができないって・・・わかってるんです・・・」
俯きがちにしている視線の先には二匹目のホワマリンの頭(骨状態)。
先ほどと同じようにフィーナに目をくり抜かれ食べられた骸は、捕食者に見つめられて何を思うのだろう。
「だから今まで、時々思っても何も言わなかったんです・・・でも、ゲンキさんもやりたいことをやれって・・・言ってくれたので・・・」
フィーナは気丈な子だ。
時々おしっこを漏らしたりすることもあるけれど、気丈な子だ。
今まで思うことがあっても、それを俺に感じ取らせることはなかった。
だがこんな未開の森の中で変な狼と暮らしていくうちに、色々な事が鬱積していたのだろう。
そして昨晩自分の思いを口にした後、これまでの反動もあって堰が切れて、今朝の拗ねてたフィーナになってしまったのか。
つまり、フィーナはホームシックなのだ。
「・・・・」
フィーナは少し涙ぐんでいた。
「フィーナ・・・俺は昨日、確かにやりたいことがあるならやるべきだと言った」
「・・・はい」
「その気持ちは今も変わらない」
「だから・・・」
「・・・・」
フィーナが少しだけ顔を上げて俺を見つめてくる。
「だからフィーナ、旅に出よう」
「・・・ゲンキ、さん・・・」
「昨日、俺はフィーナから話を聞いて、正直無理だと思った」
「・・・」
「フィーナの国がどれぐらいの場所にあるのか、まだ何も知らない。案外すぐにたどり着けるかもしれないし、見つからないかもしれない」
俺はじいちゃんとの夢を思い出す。
「でも探しもしないで、何もしてないのに諦めるのは違う。だから、旅に出ようフィーナ。俺と一緒に!」
「本当?・・ですか?」
「あぁ、本当だ!でもその代わり、一つだけ約束して欲しい」
「はい、はい、なんでしょうかっ・・・」
俺は身を乗り出して、テーブル越しにフィーナの両肩を掴む。
「絶対に生き残るんだ!」
これだけは譲れない条件だ。
誰だって生きるのに全力だろう。
けど俺の要求はその上で更に気をつけて、必要以上に慎重に、生きることに貪欲になってもらいたかった。
「その代わり俺は全力でフィーナを守る!フィーナを国に送る帰るところまで守ってみせる」
「は、はい・・・!!」
フィーナから今日初めての笑顔が溢れた。
「だからフィーナも全力で生き延びろ!!」
「はい!」
「絶対だぞ!どんなことがあっても必ず生きるんだぞ!!」
「はい!わかりました!!どんなことがあっても絶対の絶対です!」
さっきまでの鬱々とした雰囲気は消え失せて、いつも以上に元気なフィーナだった。
よし!良い流れになってきた!!
「本当か!?」
「本当です!」
「よし、もう一回だけ聞くが、本当なんだな!?」
「はい、大丈夫です!本当です!!」
「そうか!だったら口から垂れる糞の頭とケツにSir!!とつけろ!!」
「え!?・・・さ、さー?くそ??」
あ、やっぱそうなっちゃいますよね?
なんか調子に乗って流れで言っちゃったけど、やっぱりコレ通用しないですよね!?
「あ、えーっとね、あの、特に難しいことは考えずに話し出す時にサー、終わる時にもサーって言ってもらっていいですか?」
それでも俺は説明を省いて改めてお願いをしてみる。
「で、それに対してもっかい俺が訳わかんないこと言うと思うんですけど、また同じように返して頂く感じで・・・」
「は、はい?よくわからないですけど、大丈夫・・・だと思いますけど・・」
「あ、ありがとうございます!」
俺の言う言葉の意味もわからないだろうに、それでもフィーナは要点だけ了承してくれる。
「それじゃ、言いますね?」
俺は一度咳払いをして気を取り直す。
さぁ、いくぞ!
「口から垂れる糞の頭とケツにSir!!とつけろ!!」
「サー!絶対に生き残ります!サー!」
「ふざけるな!大声出せ!玉落としたか!?」
「サー!よくわかりません。サー!」
「ありがとうございまぁす!!」
はいカットー!
ええ子や。
こんなどうでもいい小芝居に付き合ってくれるなんてええ子すぎるで。
俺はフィーナを死なせない。
絶対に死なせない。
そのためにも、フィーナに俺的サバイバル術の全てを伝授しなければ!
「これでよかったんですか・・・?」
「はい、それはもう!」
「そうですか。じゃあ、次は私からもいいですか!」
「ん?何?」
フィーナが俺の隣まで歩いてきて、両手で俺の手を掴んでくる。
「私は必ず生き残るように頑張ります。だから、もし私とはぐれてしまっても、ゲンキさんも私を絶対に見つけ出してくださいね?」
にこやかに笑うフィーナの笑顔はただただ可愛かった。
女神様だから当然か。
「おう、当然だろ」
「絶対ですよ!」
「任せとけ!!」
俺は生き残る約束をフィーナに課した。
そんな俺が、フィーナを見つけ出す約束に応じない道理も理由も無い。
むしろ当然のことだ。
「本当ですね!では、少し待っててください!」
そう言うとフィーナは外へと駆けて行く。
なんだろうと思ったが、待っている間手持ち無沙汰だったので、待っている間に俺はテーブルの上の魚を片付ける。
「お待たせしましたー!」
あらかた片付け終わったところでフィーナが戻ってくる。
走ったのだろうか、少しだけ息の上がっている様子だ。
その手には2輪の小さな白い花が見えた。
「あぁ、お花を摘みに行ってたんだね」
「はい、そうです!」
うん。俺の変化球もストレートで打ち返してきてくれる。
やっぱりフィーナは良い子だね。
「ゲンキさん、これをどうぞ」
差し出された一輪の花を受け取る。
白い花。
俺の知識だとその花のビジュアルはマーガレットに近い。
改めて気にしたことはなかったが『クラフータズ』のマップではいろんな色の花がよく自生していたような気がする。
「白いお花をお互いに交換するのが、私の国の大事な約束の仕方なんです」
「へぇ・・」
これは俺の国でいう指切りみたいなものだろうな。
「絶対の大事な約束なので、ゲンキさんにもやって頂けないかと思いまして・・・」
そういって俺の様子を伺うように見上げてくるフィーナ。
安心して欲しい。
どれだけ重要なことであっても、それに答える気持ちが俺にはある。
「お安い御用だよ。じゃあ、フィーナ、必ず生きるんだぞ」
俺はそういってフィーナに白い花を差し出す。
フィーナは差し出される花を見つめると、はにかみながら受け取って、お返しに花を差し出してくる。
「はい。ゲンキさんも、私を見つけ出してくださいね」
そして互いの花を交換して、俺とフィーナは約束を交わす。
決して違えてはならない、白花の約束を。
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