1-13 拝啓 先輩
今夜もまたログインをする---
朝起きると、フィーナはまだベッドで眠っているようだった。
俺は自分のベッドから降りて起き上がると、その物音に反応してフィーナの掛け布団がモゾモゾと動くのが見えた。
「・・・フィーナ?」
「・・・・・」
フィーナからの返事はない。
まだ寝てる?
うーん?
「フィーナ?」
「・・・」
うーーーん??
俺はフィーナのベットに近づくと、おしりと思われる部分をツンと突いてみる。
ビクッと反応する布団。
やっぱこれ起きてるやん。
普段は反応しないから、間違いないね。
ちなみにこのフィーナのお尻つつきはフィーナが寝ているということを確信的に見抜く職人の目と、お尻をつついても起こさない熟練の腕が必要だ。
素人にはおすすめできない。
「フィーナ?起きてるよね?」
「・・・・・」
うーーーーーーーーーーん???
ツン。
ピクッ。
さっきほどではないが、軽く反応する布団。
ツンツン。
・・・・・。
今度は無反応のようだ。
ツンツンツン。
・・・!!!
布団は、何かに堪えるように、震え始めた。
禍々しさを伴うこのオーラは、殺気・・・!?
俺の中の熟練の職人が尻尾を巻いて逃げ出して、家に篭って出てこなくなるぐらいのとてつもなくでっけぇ気を感じて死をイメージする。
よし!
ここらで勘弁しておいてやるよ!!
俺はそそくさとフィーナのベッドから離れると、俺のベットの脇にフィーナが備え付けた食糧の備蓄ボックスを開けて、これまたフィーナが大量に作成した魚の燻製を二本取り出す。
それを石で作った七輪の上にかけて、炙り始める。
じりじりと焼かれるホワマリンの燻製。
急ぐのじゃ、俺。
ひとたび沸き起こった女神の怒りを鎮めるためには、供物を捧げるしかないのじゃ。
伝承にある儀式に倣い、ホワマリンの匂いと煙で燻せばどんなにヘソを曲げた女神様も空腹に耐えかねて怒りを忘れるという寸法じゃ。
軽く炙るだけなのですぐに魚は仕上がった。
部屋には十分に匂いが充満していることと思われる。
俺はそれを皿に乗せてテーブルの上に置いてから、再度フィーナへ語りかける。
「フィーナー?朝ご飯できたよー。食べるぞー?」
「・・・・」
「ほらー、今朝はフィーナの大好きなホワマリンの燻製だよー。フィーナー?」
「・・・・」
【クゥゥゥ】
布団の中のフィーナがモゾっと一度体を縮こませたのが見て取れた。
まぁ、体を捩ったところで空腹がごまかせるはずもないのだけど。
【クゥゥゥ】
それにしても、お久しぶりですお腹の虫先輩。
ここのところフィーナを食べものには困らせてなかったので、ご無沙汰でしたね。
どうですか最近の調子は。
え?お腹が空いている?
よかったー、いま丁度料理が出来たところなんで食べてくださいよ。
ね、先輩。あと、
「フィーナー?」
「・・・・」
【クゥゥゥ】
「お腹空いたよね?ご飯一緒に食べようよ?」
【クゥゥ】
ほら、先輩もこう言ってるから、出ておいでってば。
いい加減ラチが開かないので、女神様の機嫌がちょっと怖いけれど布団を剥がすためにベットによっていく。
「ほら、フィーナ、いい加減に起きなって・・ば!」
グイッと布団を剥がそうとすると、内側から掴んで抵抗する力。
一回で無理に剥がすのは可哀想だから力一杯は引っ張らないが、ある程度ゆっくりと力を込めて、布団を引き寄せてる俺。
するとある瞬間でフィーナは抵抗することをやめて、布団に掛かっていた力が抜けた。
引き剥がした後にベットを見ると、両膝を抱えて丸くなっているスモールフィーナがいた。
「フィーナ・・・」
膝に埋めてあまり見えないその顔は、少し、泣いているように見えた。
どう見たって昨日の夜の話を引きずっている。
帰りたい・・・のだろうか。
そりゃ、そうか。
故郷だものな。
フィーナぐらいの年頃では特にその思いも強いだろう。
【クゥゥ】
・・・。
先輩もフィーナが心配で出てきたって訳だったんですね。
「ほら、フィーナ、何も話さなくて良いからさ、ご飯を食べよう。ほら、起きて」
「・・・・」
フィーナは俺と先輩の勧めで渋々と布団から起き上がり、テーブルへと歩みを進める。
席について魚の前に座った時に先輩は役目を果たしたためか、【クゥゥ】と鳴いて別れを告げてきた。
どんな時でも腹は減る。
フィーナを見て、生きる力って凄い、って思ったような気がした。
◆
俺とフィーナは静かな食卓でホワマリンを頬張る。
いつもはフィーナが元気良く喋っているから食卓は賑やかなのだが、今日に限ってはそれがない。
普段俺から話題を振ることがあまりないうえ、今日は話掛けても無反応なので取り付く島がないため静寂に輪が掛かっている。
黙々とホワマリンの燻製を口に運んでいると、フィーナが皿を目の前に押し出してくる。
皿の上にはきれいに平らげられたホワマリン。
目ぼしい身や皮の部分は全てフィーナに食べ尽くされている。
二つとも綺麗に抜かれた魚眼の空洞が悲しげだ。
どうした、ごちそうさまが聞こえないぞ?
いつもはフィーナが自分で片付けてくれるけれど、今日はおセンチでちょっぴりわがままみたいだな。
俺は片付けるために皿を流し場に置く。
すると、フィーナが後ろについてきていた。
「ん?・・・どうしたのフィーナ?」
「・・・・・」
フィーナは流し場に置かれた皿を持ち上げて、再度俺にグイッと差し出してくる。
「・・・?」
俺が今ひとつ釈然としない様子でいると、再度皿を押し付ける。
グイグイグイ。
「わ、ちょっと・・・」
空虚な瞳の魚(骨)が何度も迫ってくる。
グイーグイー。
「ちょっと・・・フィーナ、ひょっとして、おかわりが欲しいのか?」
グイ。
皿を押す力が止まる。
どうやら正解だったようだ。
そうですか、まだ食べますか。
すごい。フィーナの生きる力すごい。
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