1-7 赤ずきんと腹の虫


愛しのログハウスに戻ると、フィーナは服を着てベットの淵に座り、手櫛で髪を整えているところだった。

俺に気づくと、傍らにあったトレードマークのずきんを被って赤ずきんフィーナちゃんにトランスフォームした。


「おはよ」

「・・・おはよーございますっ」(プイッ!)


俺が話しかけるとフィーナはプイッと顔を逸らして、ツンとした口調で返事をしてくる。

あれれ?

昨夜のことを引きずっているのかな、なんだかとってもトゲトゲしいゾ。

俺は室内に足を運んで、フィーナの前に立って再度会話を試みてみる。


「昨日はよく寝れた?」

「はい、ベットを譲って頂いたお陰で快適でしたっ」(プイッ!)


また俺から顔を背けてしまう。


「・・・そう、良かった。シーツに俺の毛とかは付いてなかった?」

「・・・なんか、その言い方、変態っぽいです!」


流し目で俺を睨みつけながらフィーナが釘を刺してくる。

確かにちょっと気持ち悪い質問の仕方をしてしまったかもしれない。

でも俺、狼男だから、体毛が付着してたら心配だなって思って聞いただけなのに・・・。

昨日の俺に感謝してくれていたフィーナなら、もっとこう、手心というか、可愛げというか、そういう感じの言い回しをしてくれたのではないだろうか。


「なぁフィーナ、昨日のことはもう言わない約束だろ。俺の方を向いて話してくれよ」

「やです」

「どうして」

「昨日のことは話してませんし。それに、私がどこを向いて話しても私の勝手ですっ」(プイッ!)


ちくしょう、明らかに引きずっているじゃないか。

昨夜、『フィーナがなんでもしてくれる権利』を使用してまで赦しを得たのに。

俺が変態紳士だったのはもう過去のことだろう?

これでは俺だけが貴重な権利を手放し、損した気分になってしまう。

何を話しかけてもツンツンしてるし、これじゃ八方塞がりじゃないか・・・!


【グゥゥ】


「ん?」

「ッ・・・!」


何か音が聞こえた。

具体的にいうと誰かのお腹の虫がなっているような音が聞こえた。

その音のなった方向に視線を向けて見ると、俺と顔を合わせないようにしているフィーナがいた。


【グゥゥ】


フィーナがお腹を押さえる仕草をしている。


「フィーナ?」

「なんですかっ」

「お腹、空いたね?」

「減ってませんっ」


【クゥゥゥゥ】


ククク。フィーナの強がる発言とは裏腹に、体は正直だ。

ひときわ大きな音を鳴らして俺の言葉に媚びてやがる。


「本当に減ってませんからね!?」

【クゥゥゥゥ】

「・・・ぅぅ!」


再度、慌ててお腹を抑えるフィーナ。


【クゥゥゥ】

「・・・ッ!もうぅ!」

【クゥゥゥ】

「ぅぅぅ!!」


今日初めて俺と向き合って話してくれたかと思えば、自分のお腹の虫と喧嘩を始めてしまって、なんというかリアクション困る。

この戦いは食べ物を手に入れるまで終わることがないのだろう、きっと。


「フィーナ」

「なんですかっ」

「ほら!これ!」


俺は昨日木を切っている時に手に入れたリンゴをアイテムウインドから取り出して、放り投げる。


「気がつかなくてごめんな。食い物、急いで取ってくるからちょっと待っててくれ」

【クゥゥゥゥ!】


フィーナは掴んだリンゴを見てむすっとしていたが、フィーナの腹の虫は今日イチ元気な音で返事してくれる。

ククク。お嬢ちゃん、やっぱり体の方は正直じゃねーか。あぁん?


「無言でニヤニヤするのやめてください!!」


顔面に枕を投げつけられてしまった。

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