1-6 狼男の行水
燦々と差し込む朝日が瞼に刺さって眩しくて、堪らず俺は目を覚ます。
視界には青々とした空が飛び込んできた。
愛しのログハウスは昨夜壁と床を作成したが、天井がまだないのだ。
昨晩寝る前に「この星空が俺の家の天井さ!」とフィーナに言ったら引かれた。
女性にモテた経験なんて皆無だけど、まさかNPCにまでマジ引きされるとは思わなかった。
本物の女性には絶対に言わないようにしよう。
まあ、そんな機会はないだろうけれど。
ログハウスの床から起き上がってベットを見ると、フィーナがスヤスヤと眠っている。
部屋の中央で干してあるフィーナの衣服も一晩かけて乾いたようだった。
昨夜は色々と大変だった。
お怒りになる名探偵金髪ロリ女神様をなだめてすかして、謝り倒してまたなだめ、最終的には折角手に入れた『何に変えても必ず返す恩』の権利を行使してして赦しを頂いた。
俺が提案した大逆転の発想に、フィーナは本当にめっちゃ不機嫌そうに膨れて渋々と「なら、もういいです・・・!」と言って引き下がってくれた。
俺は非難を免れて、フィーナは早々に恩を返せてどうにかwinwinの取引が成立した。
やっぱり人間対話が大事だよね。
そのあと、あまり口を聞いてくれないフィーナに星空の天井の話とかを振ったけど対応は実にしょっぱかった。
その頃にはいい加減夜も更けて来ていたので、フィーナにベットを譲って俺は床の上で眠ったというわけだ。
フィーナがまだ眠っていることを確認してから、俺は水浴びのためにすぐ近くの湖へ向かう。
上着を脱いで水に浸かって両腕で全身を揉むと、赤黒い色が滲み出てる。
思った以上に血なまぐさい状態だったのだろう。
ほとりに置いた上着も濯ぐために水の中に引きずり込んだ。
クラフターズにもモンスターは現れる。
昨晩現れた半魚人のみならず、俺と同じ狼男、スライム、ミノタウルス、オーク等、何処かのファンタジーで聞くようなモンスターがそれなりに現れる。
らしい。
正直初見のゲームだったから、昨日の襲撃が俺にとって初体験だった。
なんの前触れもなく、そして自然に襲撃してくるのだと驚いた。
フィーナが叫び声をあげてくれたから気づけたが、俺一人だったら床を貼り付けているところで不意打ちを受けて死んでいた可能性もある。
まぁ、死んでも前に睡眠をとったところからリスタートできるから、死んだところでそんな深刻な問題じゃない。
死に戻りしても復活してまたプレイを続行するから気楽なもんだ。
でも、クラフターズの中のNPCであるフィーナはどうなるかはちょっとわからない。
恐らく・・・復活しない気がする。
でも、フィーナってNPCにしてはなんだかキャラが立っているし、イベントキャラな気もするから、もしかしたら死んでも復活する措置がある可能性も否めない。
もし仮に死んで消えてしまうなら、それはそれで俺は元のプレイに戻るだけだし。
だからまぁ、俺は別にどっちでも・・・。
・・・。
フィーナは、昨日モンスターに襲われていた時、怖がって怯えていた。
モンスターから助けてくれたと心底感謝してくれた。
冗談を言ったらクスリと少し笑ってくれた。
そして、俺の変態的行為をかなり嫌々だけど許してくれた。
仮に死んでも、プログラム上のデータが一つ消えるだけのことだ。
たったそれだけのことなんだ。
出会ってからゲーム内の時間でほんの半日程度の、薄い関わりしかない。
俺とフィーナはその程度の関係に過ぎないのだ。
・・・でも、この世界における初めての友人でもある。
だから、大事な存在なんだ。
だから。
「死んでほしくない、よな・・・」
ゲームのキャラだから別に死んでも良いということは理解できる。
沢山のモブ兵士をなぎ倒すアクションゲーとかで遊ぶから、俺も大概なことは言えない。
でも、俺はゲームキャラが安易に死ぬことに、あまり無関心ではいたくなかった。
例えゲームだったとしても、俺はフィーナに消えて欲しくない。
それは下卑た気持ちからじゃない。
小学生の頃、友達に抱いていた純粋な仲間意識みたいなものに近い感情。
ゲームの中でのほんのわずかな程度の付き合いだったとしても。
「キャラ愛が強いなぁ、俺・・・」
俺は水面にぷかっと浮いて、空を眺めた。
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