1-3 ある日 森の中で
沢山作った床や壁の設置もソコソコに、俺は急いで薪の作成に入った。
濡れてしまった衣服を乾かすために火が必要なのだ。
幸いと水は川と湖畔のどちらからでも取りたい放題だ。
彼女にはその水で衣服を洗うよう伝えて、俺は薪を作成するためのレシピを確認する。
火打石やら何やらの素材が色々必要だということで、近くの山へ行ったり沢へ行ったりで忙しかったが、どうにか素材を揃えて作成した。
その甲斐もあってか、今赤ずきんちゃんは下着一枚だけを残して、ログハウスの室内中央に囲炉裏みたいに設置した焚き火に当たっている。
服も適当な木材を置いてそこに引っ掛けて乾かしている。
事案の懸念は未だ残るが、少なくとも加速は止まったのだ。
遠い目で空を見ていると、傾く太陽が視界に入った。
それを見て思う。
今日は建材よりも先に火を作っておくべきだったのだ、と。
奥深い森で、昨日作業を中断した理由が暗かったからだったと思い出す。
右も左も家の位置もわからず危険だった。
初期の手荷物としてあったベットだけは設置できたが、視界があればもっと色々なことができたのだ。
そう考えると、赤ずきん洪水事件は悲しい出来事だったが、それを切っ掛けにした火の確保という方針転換は結果オーライだった。
ありがとう赤ずきんちゃん。
俺はちらりと焚き火に当たる赤ずきんを盗み見る。
今は衣服と一緒にずきんも乾かしているから、赤ずきんちゃんではない。
ずきんの下はブロンドの髪だった。
つまり金髪ロリ娘だった。
マジかよ。
これは危険。危険ですよ。
大変危険な存在へと変異していますよ。
まるで魔王の一段階目を倒したらドラゴンフォームに変わったような圧力を感じますよ。
本当の地獄はこれからだったんだ。
全身の素肌を晒し火に照らされる幼女の横顔は実に事案が加速するため、すぐに視線を正面に戻して精神を整える。
・・・うん、美しい夕日だ。
そして落ち着いて夕日を見ていると、改めて疑問が湧いてくる。
このキャラは何なのだろう?
『クラフターズ』は、他の人間も同時接続をして楽しむことができる。しかしそれはマルチプレイヤーの設定であることが前提となる。
俺は今、シングルプレイヤーの設定で遊んでいた。
いわゆるぼっちプレイというやつだ。
dreamsのゲームは全てクラウド上にあるから、俺の端末も常にオンライン状態ではあるのだが、他のプレイヤーが介入してくることは設定上ありえない。
とすると、この赤ずきんはdreams上で生成されているNPCキャラクターだ。
赤いずきんちゃんの今日の行動を振り返る。
恐る恐る話しかけてきて、俺にペロられてへたり込んで赤ずきんの大洪水を起こし、そして最後に慌ててる俺を見て、笑った。
・・・・凄い。
これまでもdreamsには何度も驚かされたけれど、今回は特に凄い。
ゲームに組み込まれたムービーシーンならわかるけれど、これが全部、アドリブのモブキャラの行動だなんて。
日々プログラムの最適化を行なっているだろうけど、それにしたってリアクションの生々しさが尋常じゃない。
『dreamsの神対応AI大洪水』みたいな動画を撮ってたら再生数稼げたんだろうな。
いやでも児童ポルノの取り扱いも近年厳しいし、多分洪水シーンでBanされるか・・・。
残念だな。絶対再生数稼げるシーンだったのに。
全国のょぅι゛ょ好きが間違いなく釣れた。
なんたって金髪だし・・・って、いや、待て待て・・・まさか司法がゲームに介入して、このイベントを差し込んでロリコンの炙り出ししてるとかないよな・・・!?
もしそうだったら今回の俺の対応はセーフか・・・!アウトか・・・!?判定や如何に!?
思い出せ、思い出せ・・。
「あのぅ・・・」
「うわぁ!?」
「ひゃう!!」
振り返ると服を着た赤ずきんちゃんがいた。
俺のリアクションに驚いてまた身が引けているけれど、初対面の頃よりかは距離が近い気がする。
トレードマークのずきんは付けておらず、まだ湿り気のある金髪の髪がキラキラとして綺麗だった。
「あ、あぁ、ごめんごめん。驚いたよね?ちょっと考え事してて・・」
「いえ、私こそ、今も先ほどもいきなり話しかけて失礼しました」
「全然いいんだよ。俺こそごめんね、すごい怖がらせちゃって」
「はい、まぁ・・・」
そういうと先ほどの水害を思い出しているのか、恥ずかしげに顔を伏せてしまう。
「服、もう乾いたんだね!」
俺は堪らず話題を逸らそうと話題を振ってみるが、そんなに逸れてないなと自責する。
「は、はい。火の用意までして頂いて、本当にありがとうございます」
「気にしないで。どっちみち日が暮れるまでに用意するつもりだったから」
すっかり忘れて家造りに没頭してたのは内緒だ。
「君はどうしてこんな場所にいたの?」
「それが・・・その・・・・人攫いにあってしまいまして、途中で逃げ出したのです・・・」
「へぇ、それは大変だったね・・・」
とりあえず相槌を打ってみたものの、本当かどうか怪しい反応だった。
そもそもこの周囲に人里があるのかも疑わしい。
返答までに時間がかかったのも、ただ返答をプログラムが組み上げるまでに時間を要しただけなのか、純粋に嘘の間を表現しているのか、その判断も付かない。
明らかにイベントのトリガー役になりそうな赤ずきんちゃんの存在は、現時点で異様でしかなかった。
何かの隠し要素?
いや、それともまさか、バグかハッキング?
いいやそれとも、やっぱり君は司法の手先!?
「あ、あの・・・!」
「あ、はいはい、どうしました?」
いけない。
いくらNPC相手だからといって、変に会話の流れを止めると指摘されるみたいだ。
会話生成プログラムの精度が高いとなまじ人間じみて、逆にやりづらいかもしれないなぁ。
「私、フィーナと言います」
「フィーナ?あ、名前か。フィーナちゃん。うん、よろしく」
そういえば名前をまだ知らなかったんだ。
赤ずきんちゃん、で通りが良いから全然気にしていなかった。
赤ずきんちゃん改め、フィーナ。
フィーナは何だかモジモジとして俺の様子を伺っている。
何だろうと思ってフィーナを眺めていると、俺のアバターである狼男がペロッと舌なめずりをする。
フィーナがそれを見てまた少しビクッと体を固くする。
狼男アバターの待機中モーションで驚かせてしまう。
ごめんよ。
でも脅かしたいわけじゃなくて、このアバターが勝手にやっているんだ・・・。
「あ、貴方のお名前を、お伺いできますでしょうか」
「え?俺の名前?」
「は、はい。貴方のお名前です!」
「俺の、名前・・・?あ、そっか!ごめんごめん!」
しまった。
いつも勝手にシナリオが進行して、NPCは俺の名前を聞いたことにしてくれるから、名乗るなんて発想が全然なかった!
俺、基本的にシングルプレーのゲームしかやらないし、ぼっちプレイヤーだし。
「えと、俺の名前はゲンキ」
俺はプレイキャラに共通して付けている名前を名乗る。
本名から取っているんで馴染みも深い良い名前だ。
「元気?ですか?」
「そう、ゲンキ。カタカナでゲンキ」
「ゲンキ、様・・・」
「様とかやめてよ。俺は唯の狼男だよ。呼び捨てで良いって」
「いいえ、恩人の方を呼び捨てなんてできませんよ」
そういうとフィーナは、両手を口元で擦り合わせて微笑みながら語り掛けてくる。
「では、ゲンキさん、でどうでしょうか」
「あぁ、まぁ、それで良いよ。オッケー」
「ありがとうございます。ゲンキさん!」
「はいよ」
「フフ!」
ニコリと笑うファーナのリアクションが、何だがとても可愛らしかった。
中学生ぐらいの背丈なのに、何だろう、年不相応な言葉遣いやリアクションをしてくる。
dreamsのAI、年齢設定を間違えているんじゃないだろうか?
それになんていうか、無自覚にツボを攻めてくる感じがあるぞ・・・。
これはやっぱりCIAか公安警察の罠なのか・・・?
この子に色香を感じるようなことあれば、俺はきっと檻の中へ・・・。
って、そんな大仰な機関が一介のゲームにわざわざ介入するわきゃないわな。
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