1-4 二人っきりのDIY


すっかり辺りが暗くなってしまったが、部屋の中央にある焚き火の明かりを頼りに、俺はパチパチと床材をはめ込み始める。

基本的にはカーソルを合わせてボタンを押すだけで素材がはまる。

この繰り返しで家が完成するのである。


素材の重量や資材置き場は基本的に気にしなくて良い。

ある程度の個数までなら俺のアイテムリストの中で所持できる。

重量なんて無いも同然。

ゲームならではの超ご都合・超簡単ログハウス作りである。


現実でログハウスを作ろうとしたら、場所も資材も労力も沢山必要になっちゃうよね?

でも、ここならそんな厄介な制約からは解放されるのさっ。

そう!dreamsが提供するこの『クラフターズ』ならね!


「ゲンキさん、こちらの壁は全部終わりました。余った壁材はどうすれば良いでしょうか?」


心の中でドヤる俺にツッコミを入れるようにフィーナが話しかけてくる。


「残りは奥の部屋に使ってもらえるかな。まだ未完成な所があるから」

「はい、わかりました!」

「暗いから気をつけるんだよ」

「はい!大丈夫です!」


フィーナは元気よく返事をすると、部屋の奥へと掛けていく。

昼間のことを恩に感じているのか、手伝うと言いだしてくれた。

人出が増えるのは、正直ありがたい申し出だったので俺も快諾。

彼女は恩を返せて、俺は人出が増えて、まさにwinwinの関係を築いている。

便利だぜNPCフィーナちゃん。


俺は床材をはめる作業に再び没頭する。


サク!と言う軽快な音ともに床材が設置される。

それまで泥と芝生だった地面が木目美しい床に変化するのが良い。


サク!サクサク!

サクサクサク!


室内の雰囲気が文明的なものへと変化していく。

人と獣の決定的な違いである文明を手にして、地面にはめ込んでいる。

俺だけの隠れ家的ログハウス。

最高や!


サク!

サクサク!

サクサク!

サクサクサク!


「いやぁぁ!!」

「え!?」


黙々と作業に集中していると突如フィーナの叫び声が聞こえてきた。


「フィーナ!?」


急いで隣の部屋へ飛び込むと、今にも壁の隙間を破って侵入してきそうなモンスターがいた。

それを目前にして、フィーナは俺と出会った時のように腰を抜かしてへたり込んでいる。


「伏せてろ!」


庇うようにフィーナの前に立ってモンスターと対峙すると、暗闇の中で狼男の夜目が効いて、大雑把にだが敵が見える。

わかりやすい大きなヒレと魚の頭。

相手は半魚人だった。

俺は戦闘メニューを展開して、内側から壁を破壊しながら飛びかかり、雄叫びを上げながら殴りかかる。

半魚人も何か叫び声とも金切り声ともつかぬ咆哮を上げて俺に応戦してくる。

半魚人の顔面を何ども殴りつけると、反撃とばかりに手に持ったナイフを振り回してくる。

視界が一瞬赤く照らされて攻撃を受けたことがわかる。

俺は殴りつけるのをやめて、ナイフを持つ手を押さえつけながら半魚人の首元に噛み付く。

体を捩らせながら半魚人が反抗するが、深く食いついた牙を離さないよう、現実の俺は手に持つコントローラーに力を込める。

やがて絶命した半魚人はボン、っと煙になって地面にドロップアイテムを散らして消える。

俺は警戒して周囲を見渡しつつ立ち上がると、ドロップアイテムは自動的に俺のアイテムウィンドへと追加される。


・・・・忘れていた。

『クラフターズ』は夜間のうち、フィールドにモンスターが出現するのだった。


俺は急いで家の中に入って、壁をはめ込み穴を無くす。

外から見えないようしっかりと塞げば今のような襲撃は起こらないはずだ。


「・・・もう大丈夫だ。フィーナ、怪我はない?」

「・・・・あ・・・の」


しかしフィーナは震えて立ち上がる様子がない。

無理もない。

いきなり襲われたのだ。


「大丈夫?どこかやられたりしていない?」

「あの!!怪我とかは大丈夫ですので!近づかないでぇ!」


俺が近づこうとすると殊更に強く拒否するフィーナ。

一体どうしたんだ・・・?

しかし俺はその時に気づいた。

暗がりで見えづらいが、夜目のボーナスが入っている俺の視界が捉えてしまう。

さっきはめ込んだばかりの床材の上に広がる聖なる泉を。

そしてその泉の上にへたり込んでいる金髪ロリ女神の存在を。


「・・・・」

「・・・・」

「・・・ごめん・・・なさい・・・」


泣きそうな声のフィーナ。

いや・・・なんか、俺もごめんなさい。

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