第15話 オークとの対決
「ライン。オークはどういう編成で来ていましたか?」
軍師のジャンが作戦を立てようと見張りの僕に詳細を聞いてくる。
「一番でかい個体が中心になって
「なるほど。大将が自ら前に出て来る作戦ですか。ならば、こちらも同様にロザリーを中心とした偃月で迎え撃ちましょうか」
「わかった。ボスオークは私が必ず倒す」
ロザリーが自身のレイピアを構えてそう言った。戦闘準備は出来ているようだ。
「くれぐれも注意して欲しいのはオークは統率がとれていない反面大将を討ち取っても混乱はしてくれないということです。ゴブリンとの違いはそこです。ゴブリンは統率が取れているから大将を倒したら混乱して敗走してくれますがオークではそうはいきません」
「ボスを倒しても油断するなということだろ。わかってる」
ロザリーはゴムで自身の深紅の髪を結った。彼女なりの気合の入れ方なのだろうがその仕草が少し色っぽかった。
「皆行くぞ!」
紅獅子騎士団は隊列を組んで農村地帯を後にした。戦闘に勝つためだけならこのままオークをここで迎え撃つのもありだが、ここを戦場にするわけにはいかない。ここには人が住んでいて、食料も生産している正に民にとって生命線の場所だ。戦う場所は人里離れた方がいいだろう。
◇
ケルグ農業地区を抜けた平原の先からオークがやってきた。恐らくこれから先にオークの巣があるのだろう。
前方を進んでいくと視力がいい騎士の一人が黄土色の肌が見えたと報告をした。敵はもう目前だ。
「皆! 敵が見えたぞ!」
黄土色の肌を持ち、豚の面をした醜い脂肪と筋肉の塊の獣人が現れた。ロザリーは一際大きい個体に睨みを利かせる。
「あの大きい個体……ボスオークは私がやる! 皆は周囲のオークを引き付けてくれ」
騎士団達の雄たけびが鳴り響く。それに対してオークも負けじと雄たけびをあげる。オークの方が声量が大きくこちらの声が掻き消されてしまう。肺活量というか身体能力では向こうに分があるようだ。
しかし、僕らのロザリーはそんな雄たけびなんかに怯まずにオークに立ち向かっていく。レイピアを構えてボスオークの腹部に突き刺そうとする。
しかし、ボスオークは蝶のような華麗な動きでロザリーの攻撃を軽く躱していく。巨体に似合わずかなりスピードが速いようだ。オークの筋肉はバネが非常に強くて瞬発力がありそれを利用することで速さを得ているのだろう。
「ほう面白い。スピードならこっちも負けないぞ」
ロザリーは華麗なステップでオークに近づく。そして今度もまたオークに向かってレイピアでの突き攻撃を繰り出す。
オークは後方に思いきり飛んでロザリーの攻撃を躱した。バネのような筋肉は跳躍力をあげるのにも一役を買っている。筋肉の質では圧倒的にオークの方が優位なのだ。
「なるほど……動きは大体わかった。次は仕留められる」
ロザリーはにやりと不適な笑みを浮かべた。何か策でもあるのだろうか。
一方でロザリー以外の騎士もオークとの戦闘を行っていた。大きい個体を相手にするロザリーの両脇にいる騎士達はかなり苦戦しているようだ。
オークに自身の攻撃を躱された後にオークの噛みつき攻撃で首筋の肉を抉り取られてしまっている。
「がは……」
「大丈夫か!? 戦えそうにないならすぐに後方に下がれ。私が時間を稼ぐ」
ロザリーは団員に気を掛けている。オークの噛みつきはかなり強い。顎の力も発達していて人間の肉なら簡単に食い破れるだろう。
ロザリーは負傷した団員の分までフォローして二匹のオークと対峙している。一方はボスオーク。もう一方は比較的大きい個体のオークだ。
負傷した団員がこちらに向かってきている。僕は彼の元へと駆け寄った。衛生兵が前に出すぎるのも良いことではないが、首筋の止血をすぐに止めないと最悪命に関わることだ。四の五の言っている場合ではない。
「ライン……すまない」
「しゃべらなくていい。今すぐ止血する」
僕はオークと騎士が戦っている戦場に出て、医療道具を使って彼の止血を始める。消毒液を垂らして清潔な布を当てしっかり固定する。簡単な応急処置だが、これでもしないよりはマシだろう。
一通りの処置を手早く済ませた時には、既にロザリーは一匹の大きい個体のオークを倒していた。これくらいロザリーにとっては難のこともない相手なのだろう。
「次はお前だ! ボスオーク!」
ボスオークは仲間を倒された怒りからか雄たけびを上げてロザリーに襲い掛かろうとする。完全に我を忘れたその行動。ロザリーが見逃すはずがなかった。
ロザリーはダッシュしてボスオークとすれ違った。そして、すれ違い様にボスオークの体を滅多刺しにして奴を倒したのだ。
「怒りで我を忘れた拳で私に勝てると思うな」
ボスオークはその場に崩れ去った。ロザリーの勝利だ。
「よし! 後は残党を倒すだけだ! 皆! 最後まで油断するなよ!」
騎士団の雄たけびが平原に響き渡る。勝利はもう目前であった。
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