第14話 待機

 僕達紅獅子騎士団は農村に泊まることになった。いつオークが襲来してくるかわからない状況なので、いつでも戦えるように準備をすることにした。交代で見張りと休息を行い、警戒を強めた。


 途中で地区長が食べ物の差し入れを持ってきてくれた。彼らも生活が苦しい状況なのか、豆のスープだけという質素なものであった。しかし、ロザリーはそれを断ろうとした。


「貴方達も生活が苦しいのだろう? 私達のことはいい。その食事を子供達に分け与えてやってくれ」


「いえ、しかし……騎士の皆様に力をつけて頂かないと」


「それには心配及ばない。既に軍の配給物資があるからな」


 ロザリーが丁重に断りを入れると地区長も折れたのか豆のスープを村民達に振る舞うことにした。腹を空かせていた子供達が一斉に食いつき、豆のスープを貪り尽くす。


 ここの所農作物の凶作が続いていたのだから子供達も満足に食べられてなかったのだろう。その状況でオークの不意打ち。不憫というに他ならない。


「さて、そろそろ見張りの時間だな」


「そうですね。行きましょうか。ライン兄さん!」


 僕達は立ち上がり、所定の位置へと向かう。アルノーとペアを組んで一緒にオークが来るかどうか監視をする。


 既に見張り台にいた騎士達と交代をする。


「じゃあ、ライン。アルノー。後は頼んだぞ」


「ああ。お疲れさん。ゆっくり休んでくれ」


 先に見張りをしていた騎士は緊張が解けたのか、あくびをしながら見張り台を下りていく。騎士にとっても休息は必要だ。常に張りつめた状態ではいつか体と精神に限界が来てしまうから。


「なあ、アルノー。前から訊こうと思ってたんだけどさ」


「何ですか? ライン兄さん」


「キミはどうして僕に憧れているんだ?」


 正直僕は前線に立って活躍する騎士ではない。ただの後方で負傷者の治療をするだけの衛生兵だ。


「ライン兄さんが多くの命を救ってくれたからです。その中には俺の父さんも含まれています。ライン兄さんは父さんの命の恩人なんです」


「父さん……?」


「覚えてないですか? 紅獅子騎士団が結成される前にライン兄さんが所属していた部隊。蒼天そうてん銃士隊のエミール。彼が俺の父さんなんです」


 僕は記憶を手繰り寄せる。蒼天銃士隊。僕がかつて所属していた部隊だ。マスケット銃を陛下から賜った銃士達で結成された部隊。僕はそこで新人衛生兵として経験を積んでいた。


 エミールと言えば蒼天銃士隊の一員で僕も覚えがある。一度敵の攻撃が急所に当たり、死にかけたことがあったっけ。あの時処置を担当したのは確かに僕だった。


「思い出したよアルノー。そうか。キミはエミールの息子だったのか」


 エミールに息子がいるということは聞いていたが、まさかこんなに大きいとは思わなかった。言われてみれば確かに多少の面影はある。


「父さんがいつも褒めてました。あの新人衛生兵がいなかったら俺達はとっくに全滅していただろうってね」


 あの頑固で無口なエミールが僕のことを裏では褒めていたなんて何だか気恥ずかしい気持ちだ。


「それでライン兄さんのことに興味が沸いて色々と調べてみたんです。そうしたら、ライン兄さんの医療技術は非常に高くて軍医からも一目置かれている存在だって。そうしたらますます憧れが強くなりました」


「なんか照れるな……」


 僕としては当たり前のことを当たり前のようにやっているだけなのに、そういう風に周りから評価されていたなんて少し照れ臭い。


「俺は本当は銃士隊に入るのが目標でした。でも、ライン兄さんが紅騎士獅子団に入団したと聞いて、いてもたってもいられなくなりこの団に入団することにしました。ライン兄さんと一緒に戦いたいですからね」


「そうか……そういうことだったのか」


「本当はライン兄さんと同じ衛生兵になりたかったんだけど、俺には医学のことはさっぱりだから……俺頭悪いし……だから、騎士としてライン兄さんを護りたいと思ったんです」


 アルノーが僕に憧れている理由はわかった。こうして自分の仕事を正当に評価してもらえるのは何だか嬉しい気持ちもあるが、やはり恥ずかしさもある。


 一通り雑談も終わったタイミングで双眼鏡で見張っていた方角から何やら黄土色の何かが見えた。この色はオークの肌の色だ。ということは……


「アルノー。オークが来た。僕はここで見張っているから皆に知らせてくれ」


「わかりました!」


 僕は見張り台にある警鐘を力強く叩いた。耳を劈くような物凄い轟音が響き渡る。オークと本格的な戦いが始まろうとしているのだ。


「皆! 十二時の方角からオークの群れがやってきましたよ。すぐに戦闘態勢に入って下さい」


 アルノーが見張り台を下りて状況を皆に説明している。しばらくしたら僕も見張り台から降りて準備をしようか。

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