第13話 オーク討伐
今日も今日とて一日が始まる。ロザリーが慌ただしい雰囲気で騎士団の詰め所に入ってきた。こういう時は何かの討伐の任が来た時だ。
「皆! ケルグ農業地区にてオークが出没した。オークは畑を荒らして作物を台無しにしたとの報告がある。早速討伐に出掛けるぞ!」
オーク。それは豚の顔をした二足歩行の獣人で人間の三倍のパワーを誇ると言われている重量型の種族だ。まともな一般人が戦っても絶対に勝ち目のない相手で、僕達騎士団の出番というわけか。
「ロザリー。そんな急に言われましてもこちらとて作戦が決まってません。もう少し慎重になるべきでは」
ジャンがロザリーに口出しをする。
「作戦は移動中に考えてくれ。ジャンになら出来るだろ?」
「はあ……全く人使いが荒い団長ですな」
「今回は出来るだけ被害が少ないうちに済ませたい。今年はただでさえ凶作だというのに、その僅かな作物ですらオークに食い荒らされたとなれば民にひもじい思いをさせてしまう」
なるほど。それでロザリーはそんなに急いでいたわけか。
「ロザリーさん。俺は一体何をすればいいんでしょうか!」
アルノーがやる気満々でロザリーに訊く。彼にとってはこれが初任務で気持ちが少し浮ついているのであろう。
「そうだな。アルノーは後方で衛生兵の護衛をしててくれ。前線に出るのはまだ早いからな」
「了解しました。ライン兄さんは必ず俺が守ります!」
「むー。衛生兵はライン以外にもいるんだぞ」
ロザリーが口を尖らせる。相変わらずアルノーが僕にベタベタするのを快く思っていないようだ。
◇
準備を整えた騎士団はケルグ農業地区へと向かっていった。ここから離れたところにある農村地帯でとても穏やかなところだ。王都リンドルのような忙しない都会に住んでいるとつい忘れてしまいがちな何かがそこにはありそうだ。
移動中、隣にアルノーがいたのだが、アルノーはいきなり僕の胸板付近を嗅いできた。なんだこの子は……と思っていたら。
「ライン兄さん……ロザリーさんと同じ香水の匂いがする」
まずい。ジャンといいなんでこの団には鼻が利く団員が多いんだ。アルノーにロザリーとの関係を感づかれてしまう。
「女物の香水なのに変ですね。ライン兄さんってそういうの男物とか女物とか気にしない人だったりしますか?」
「あ、ああ。そうだな」
アルノーは鼻が利くが男女のそういう関係には疎いようで助かった。
そうこうしている内に騎士団が農業地区に到着するとここら一体を管理している地区長が出迎えてくれた。地区長はとてもやせ細った老人で手足がマッチ棒のようで少し力を入れるだけで折れてしまいそうなほどだった。目玉もギョロっとしていた何だかとっても不気味だと失礼ながら感じてしまった。
「おお、紅獅子騎士団の皆様方よくぞ来てくれましたな。貴女が団長のロザリー様ですか?」
「ああ。如何にも、私がロザリーだ。本日はオーク討伐の任を受けてここら一帯の警護をさせて頂きたくはせ参じた」
老人は右手を差し出しロザリーに握手を求めた。ロザリーもそれに応えて握手をした。どこからともなく「いいなー。俺もロザリーと握手したい」と言った声が団員の中から聞こえてきた気がするが、気のせいにしとこう。
「ご老人。いいですか? 被害状況の確認をしたいのですが」
「貴方は……?」
「軍師のジャンです。どこの区域が食い荒らされているかによって、次の襲撃地の予測が出来ると思いまして」
「ほほう。そういうことですか。なら被害が出たところにご案内しましょう。ついてきてくだされ」
地区長に案内されるまま僕達は農業地区を進んでいく。農業地区の端っこにある所まで来ただろうか。そこにあった大量のキャベツが無残にも汚く食い散らかされていた。
食べ物の一番美味い所だけを食いちぎり、後は全部その場に捨てる。下衆な動物のすることだ。
「こんな食い散らかし方をするくらいならいっそ全部食べてくれればいいのに……後片付けも大変なのですじゃ」
「……この歯形から見るにかなり大型のオークだな……しかし、一方でこっちのは小型のオークのそれだ。子供もいるのか……」
ジャンが食い散らかされたキャベツの跡からオークの生態を予測している。これが何か作戦に役立てばいいのだけれど。
「恐らく、この食い跡が一番でかい個体でボスオークのものだな……推定身長は三メートル。体重はおよそ二百キロと言ったところか……オークの中でもかなりでかい個体だな。ロザリー、イメージ出来ましたか?」
「あ、ああ。バッチリさ」
「頼みますよ。このボスオークを倒せるのはこの騎士団では貴女くらいなものです。なので貴女にはボスオークとの一騎打ちをお願いしたいのです。そのために回りの雑魚オーク達を如何に他の騎士に当てるかが今回の作戦の肝ですね」
ジャンはロザリーの強さに絶対の信頼を置いている。だから、ボスオークとの戦いにはあえて作戦を練らないつもりだろう。ロザリーなら自身の作戦なしでもやれると信じてのことだ。
「何だかしらないけどやるぞー!」
ロザリーが燃えている。やる気になってくれたようで良かった。ただ、この後の戦意の反動、甘えも特大なのが来そうだなと僕は覚悟をするのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます