第12話 お兄ちゃんに甘えたい
お兄ちゃん……一体どういうことなのだ。ロザリーは僕の妹ではないぞ。いや、アルノーも弟じゃないけど……え? 今までそういうこと言わなかったよね?
僕は頭の中がぐるぐると混乱していくのを感じた。急にお兄ちゃんと呼びたがるロザリーの気持ちが全く理解出来ないのだ。
「だって、アルノー……私ですらラインきゅんのことお兄ちゃんって呼んでないのに、入団して早々ラインきゅんに対して馴れ馴れしいんだもん!」
なるほど。それに対する嫉妬だったのか。だとすると対処法は一つしかない。僕はロザリーを抱き寄せて彼女の耳元で囁く。
「大丈夫だよ。ロザリー。僕にとってロザリーが一番だ。キミの望むことならなんでも叶えてあげるよ」
ロザリーの顔がパァっと明るくなる。耳元で囁かれて嬉しかったのかかなり締まりのない顔になっていて、それが可愛らしい。
「えっと……じゃあ、ラインお兄ちゃん。今日はロザリーが妹になってもいい?」
「ああ。妹でも何でも好きなものになりな。その代わり、これからはアルノーとちゃんと上手くやるんだぞ。お兄ちゃんとの約束だ」
「うん。わかった。ロザリー、アルノーの面倒ちゃんと見る。えへへー。お兄ちゃんとの約束」
僕はふと思った。ロザリーの方が年上なのに、ロザリーが妹になるのは少し変ではないかと……まあその辺は気にしたら負けなのだろう。今は歳は関係なく、ひたすらロザリーを甘やかす時間だ。
「ねえ、お兄ちゃん。ロザリーが一番ってもう一回言って。ねえ? アルノーよりロザリーの方が可愛いよね?」
ロザリーが僕に詰め寄ってくる。正直ちょっと怖い。軽く恐怖を覚える。でも、それが彼女の望むことだ。叶えてあげるのが団員としての僕の務めだ。
「ああ。ロザリーが一番だよ」
「本当に? アルノーより?」
「ああ。アルノーよりロザリーの方が好きだよ」
「えへへー。それ聞いて安心した。だって、ラインお兄ちゃん。アルノーに懐かれて何だかとっても嬉しそうにしてたんだもん。ロザリーのことはもうどうでも良くなっちゃったのかと思った」
「そうか……ごめんねロザリー。不安な思いにさせちゃって」
僕はロザリーの頭を撫でて彼女の心を落ち着かせた。ロザリーの心のバランスは正直かなりギリギリの所で保たれていて、少しでも変な風に衝撃が加わればたちまち崩れてしまうだろう。それくらい彼女の精神は脆いのだ。だからこそ、僕がついていてあげないといけない。彼女の心が壊れてしまわないように……
「えへへー。お兄ちゃんに頭なでなでしてもらって嬉しいな。えへへー。他の子にこんなことしちゃダメだよ。これは妹特権なんだから」
「ああ。わかってるよ」
別に僕には恋人がいるわけでもないし、これから先誰の頭も撫でる予定はない。僕のこの手は今はロザリーのためだけのものだ。
「ねえ、お兄ちゃん……大きくなったらロザリーのことお嫁さんにしてくれる?」
「は?」
僕は思わずそう返してしまった。何だこの会話。これがロザリーのイメージする兄妹の会話なのだろうか……というより、既にロザリーは十分大きいではないか。一体何歳くらいの想定なのだ。
「うぅ……お嫁さんにしてくれなきゃやだよう」
「わかった。お兄ちゃんがお嫁にもらってあげるから」
「本当!? 約束だよ! 嘘ついたらお兄ちゃんの背骨折るからね!」
その瞬間ロザリーは目を見開いて喜んだ。これで妹としての欲求を満たしてくれるといいのだけれど……
「ん……ライン。ありがとう。少し落ち着いてきた」
「そうか。それは良かった」
いつものように突然スイッチがオフになるロザリー。これでしばらく彼女の心の平穏は保たれるだろう。
「アルノーには悪いことしてしまったな。私の勝手な嫉妬で彼を傷つけてしまった。後でちゃんと謝らねば」
まだアルノーに怪我させかけたことを気にしているようだ。責任感が強いロザリーらしいと言えばらしい。
「ねえ、ロザリー」
「何だライン」
「妹になっている時のロザリー可愛かった」
僕がそう発言した瞬間、ロザリーの耳が真っ赤になった。
「な! わ、忘れろ! アレは一時の気の迷いだ!」
忘れろと言われても無理な話だ。あんなに可愛いロザリーは滅多に見れるものじゃない。お兄ちゃんと甘えられるのも悪くないなと感じてしまったのは事実なのだから。
「また今度も妹になって甘えていいよ」
「二度とするか!」
少し揶揄いすぎてしまったのか、ロザリーは拗ねてしまった。拗ねるロザリーも可愛いが彼女との仲が険悪なままだと今後の生活に支障が出てしまう。
「ごめんごめん。もう揶揄わないよ」
「ったく……団長を揶揄うもんじゃないぞ」
甘えん坊な性癖なところは包む隠さないロザリーだが、妹になるのを弄られるのは少し嫌なようだ。彼女の線引きというものが少しわからなくなってしまった。
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