第10話 ごろつき退治
悲鳴がした方へと駆け付けるとそこには、エリスちゃんのお母さんの特徴に合致した女性を三人のごろつきがとりかこんでいた。
「へっへっへ。中々いい体してんじゃねえか。たまんねえなあオイ! 俺好みのドスケベボディしやがってよお!」
「や、やめてください」
ごろつきの一人が女性の腰に手を回す。女性は恐怖で固まって動けなくなってしまったようだ。この状況を黙って見過ごすわけにはいかない。
「やめろ!」
ロザリーも同じ気持ちだったようで、すぐさまごろつきの一人に不意打ちで飛び蹴りを食らわせた。ごろつきは壁に吹き飛ばされて壁に激突してしまい、その場で気絶してしまったようだ。
「な、なんだてめーは!」
「紅獅子騎士団団長のロザリーだ。市民の安全を守るためにお前らを駆除する」
「な、何を~! 小娘が生意気に!」
ごろつき達は懐からナイフを取り出した。それに対してロザリーは何も持っていない素手の状態だ。まあ、勝敗は火を見るより明らかかな。
ごろつきがナイフでロザリーの服を切り裂こうとするも、ロザリーは紙一重でそれを躱して、最小限の動きでごろつきの鳩尾に拳を叩きこんだ。
「がは……」
ごろつきが口から涎を吐く。その様子を見ていた最後のごろつきは勝ち目がないと悟ったのか、エリスちゃんのお母さんに向かって近寄り、彼女の首筋にナイフを当てた。
「く、来るな! 近寄るとこいつの喉を掻っ切る!」
「く……卑怯な」
善良な一般市民を人質に取られては流石のロザリーもどうすることも出来なかった。こうなったら僕の出番かな。
僕は鞄の中から先の尖ったペンを取り出し、それをダーツのように投げて、ごろつきの手の甲に命中させた。万年筆の先が突き刺さり、ごろつきの手が開きナイフが地面へと落ちた。
「が、い、いてえ……」
「ナイスだ! ライン! せいや!」
ロザリーの回し蹴りがごろつきの延髄に衝撃を与える。その一撃でごろつきは気絶してしまった。圧勝。素手の状態でもロザリーは人外じみた強さを発揮したのだ。
「あ、あの……助けていただきありがとうございました」
「お母さん!」
ごろつきが倒された途端、エリスちゃんが自分の母親目掛けて飛び込んできた。
「エリス! どこに行ってたの……もう」
「お母さん……お母さん……」
「私を助けて頂いたばかりではなく、エリスの面倒まで見てくれていたのですね。本当になんてお礼を言っていいのやら」
「気にしないで下さい。騎士団の一員として当然のことをしたまでです」
ロザリーは屈託のない笑顔を二人に向ける。これにて一件落着であろう。
「さて、このごろつき達はどうしてくれようか」
「とりあえず、近くの軍の基地まで運ぼうか」
僕とロザリーはごろつきを引きずりながら、近くの基地まで運んでいった。
◇
ごろつきを引き渡した僕達は基地を後にした。時間帯はもうすっかり夕暮れ時だ。
「ふう……すまないなライン。折角の休日なのに、ごろつき引き渡しの時に面倒な手続きをさせてしまって」
「いいんだ。ロザリー。これも僕達の仕事だからね」
「しかし、この辺りもすっかり治安が悪くなってきているな。これも人が出入りするようになってからだ」
「活気が付くのはいいことだけど、その分犯罪が増えるからね。僕達が忙しくなるわけだ」
「ライン……今日はありがとうな。休日に上司と一緒にいるのも気疲れするだろう?」
「そんなことはないさロザリー。僕は甘えん坊のロザリーが好きだから全然大丈夫さ」
「な」
ロザリーは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「むー。キミはいつもそういうことを言って……年上を揶揄うもんじゃない!」
「僕は事実を言っているだけさ。ロザリーに頼られると不思議と悪い気はしないんだよね~。頑張ろうって思えてくる」
「もう!」
少し揶揄いすぎたようなのかロザリーが拗ねてしまった。ロザリーは一度拗ねたらまたご機嫌を取り直すのが大変だ。そろそろやめにしておこう。
「ロザリー……それじゃあ、また」
「ああ。またな」
日がすっかり暗くなったところで僕達は解散することにした。いつもと違う休日。偶然出会ったロザリーと二人きりの休日は色んな事があったけど、こういうのが後にいい思い出になるものだ。
「あのさ……ライン」
ロザリーが振り返り僕に声をかけてくる。一体何の用だろうか。
「また次の休暇もこうして一緒に過ごさないかい? 私、ラインのこともっと知りたいし」
「ああ。それはいいね。僕もロザリーと過ごせて楽しかったし、今度時間が合えば二人で一緒に過ごそう」
「うん!」
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