第9話 迷子の親探し

 ロザリーと昼食を共にした僕は店を出て、今後のことを彼女と話をしようとした。


「ロザリー。この後どうするつもり?」


「私は特に予定はないかな」


「そうか。僕も予定はないし、解散でいいかな」


 そう言った瞬間、ロザリーは僕の服の裾を少し掴んで甘えるような視線で僕を見つめる。


「せ、折角会ったんだし、もう少し一緒にいないか? あ、そ、そうだ。噴水前広場に行こうか」


「うん。そうだね。折角だしもう少し一緒にいようか」


 僕はロザリーと共に噴水前広場に行くことにした。あそこの噴水はとても綺麗で観光客が多く集まるし、デートスポットとしても有名な場所である。


 噴水前広場に行ったところで、噴水の近くで泣いている少女を発見した。治安を守る騎士団としては見逃すわけにはいかない。と僕が思ったその時、ロザリーが既に少女の目の前に行ってた。


「お嬢ちゃん。どうしたんだい?」


「えっぐ……ひっぐ……」


 少女は嗚咽を漏らすばかりでロザリーの質問には答えようとしなかった。


「ま、参ったな……」


 僕は屈んで泣いている少女と視線を合わせて肩に手を置いた。


「もう大丈夫。泣かなくていいんだよ。お兄ちゃん達に何があったか話してごらん」


 僕はゆっくり諭すように少女に語り掛けた。少女は少し安心したのかゆっくりと語り出す。


「えっぐ……あのね……お母さんとはぐれちゃったの……」


「そうか。大丈夫。安心して。お兄ちゃん達が見つけてあげるから」


「本当……?」


 少女は少し泣き止んだ。警戒を解いてくれたようだ。


「ライン子供の扱いが上手いな」


「そりゃ。子供みたいなのをいつも相手にしているからね」


「こら! どういうことだ!」


 実際僕は子供の扱いには多少の自信があった。医療従事者としては子供の相手は避けては通れない道。今までも何度も病気や怪我で泣いている子供の世話をしてきた。それに比べたら健康的な子供ならまだ楽な部類だ。


「お母さんはどんな人だい?」


「えっとねー優しくて、料理がとっても上手で、とってもほんわかしている雰囲気のお母さんだよ」


 僕としてはそういう情報よりも外見の情報を聞きたかったが、ここで焦ってはいけない。子供目線に合わせて少しずつ情報を引き出していこう。


「うんうん。いいお母さんなんだね」


「うん。私お母さん大好きー」


 肯定をしてあげたことで少女の気持ちが少し晴れたようだ。


「お母さんがどんな格好しているのか思い出せる?」


「んとねー。今日は縞々のワンピース来てたかな」


「ロザリー。これにメモを取って」


「あ、ああ」


 僕はカバンからメモ帳とペンをロザリーに手渡した。


「それからお母さんはどんな髪型しているかわかる?」


「んとねー。腰まで届くくらい長い黒髪だったかな。とっても綺麗な黒髪だよ。今日は後ろで束ねていたと思う」


「そかそか。身長はどれくらい?」


「えっとね、このお姉ちゃんと同じくらいかな」


 少女はロザリーを指さした。


「ありがとう。よくわかったよ。あ、そうだ。キミの名前を聞いてなかったね」


「私の名前はエリス。よろしくね」


「エリスちゃんか。いい名前だね。僕の名前はラインだよ。こっちのお姉ちゃんがロザリー」


「ライン? 変な名前ー」


「ははは。よく言われるよ」


「何を言うか! ラインはいい名前ではないか!」


 ロザリーは僕をバカにされて怒ったのか、エリスちゃんに突っかかろうとする。


「まあまあ、ロザリー。いいじゃないか。相手は子供なんだから」


 僕はロザリーを宥めた。彼女は少し納得いっていない様子だが仕方ない。


「じゃあ、エリスちゃん。ロザリーお姉ちゃんと手を繋いで一緒にお母さんを探しにいこうか」


「えー。私ラインお兄ちゃんと手を繋ぎたーい。ロザリーお姉ちゃん怖いんだもん」


 エリスちゃんは僕の体に抱き着いてきた。


「う……怖がらせてしまったかすまない」


 ロザリーはしおらしくなってしまった。まあ、子供相手に本気で張り合われても困る。


「すみません。エリスちゃんのお母さんはいませんかー?」


「お母さん! どこにいるのー?」


 僕達は広場を歩き回り、エリスちゃんのお母さんを呼びまわった。しかし、彼女のお母さんは一向に現れる気配はなかった。もうこの広場にはいないのだろうか。


「お母さん……どこ行っちゃったんだろう……」


「大丈夫。きっと見つかるさ」


 僕はエリスちゃんを慰めつつ、再び彼女のお母さん探しをすることにした。その時だった裏路地の方角から女性の悲鳴が聞こえてきた。


「今のお母さんの声だ!」


 エリスちゃんのその発言に僕とロザリーは顔を見合わせて頷いた。これは非常事態かもしれない。急いで向かわなければ……

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