ピース オブ クロス――3つの古布の物語

上月くるを

第1話 プロローグ






 魚は跳ね 綿花は育つ。

 夏の暮らしはたやすい。

 そのうえ パパは金持ちでママは美人。

 だから ぼうや、泣かないでおやすみ。

 だれもおまえを傷つけたりはしないよ。

 成長したおまえが 大きく羽をひろげ、

 歌いながら空に飛び立つその朝までは、

 パパとママがそばで守ってあげるから。

         (『Summertime』)



 

 上野公園や目黒川の桜が爛漫に咲き競う、2022年4月1日――


 東京お台場で開かれた骨董市に、真剣なまなざしの金髪青年のすがたがあった。

 青い眸がとらえているのは、ちぎれ、ほつれ、破け、欠片になった古布の群れ。


 うず高く積まれた藍木綿の山は、藍白、白藍、薄藍、藤鼠、青藍、藍鼠、紺藍、藍鉄……微妙に異なる色調が、愛用した人生や使いこまれた時間を物語っている。


 テレビのワイドショーの取材クルーが近づき、異国の青年にマイクを向ける。


「フェア アー ユー フロム?」

「アイム フロム ユーエスエー」


「なんのために、この骨董市に?」

「歴史感のある古い布をさがしに」


 サンフランシスコのリーバイスから派遣されたデザイナーは、人種や国籍や歳月を超えダメージジーンズの上で独自の世界を創造する古布の奇跡を飄々と語った。

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