第14話 利家、三晃のチャーシュー麺にハマる
桜橋近くの我が家から一歩出た利家さまは固まっていた。細い通りなので車は少ないが、定期的にフラットバスが来る。
交差点を左折してくるフラットバスを見て、利家さまは刀をぬく動作をする。
(本能に染み込んでいるのだな)
『前川どの!どうもあれじゃ!腰が寂しくていかん!先ほどのあれを貸してくれぬか?』
『ダメです!少しづつ教えますが現代で帯刀して街をあるいてはいけません!』
『んー。そうなのか?しかたないのお…まあ無手でも、そこらの者には後れはとらぬぞ!』
『それも、ダメです!』
『ダメなことばかりじゃのう』
『パパっ、利家ちゃんはやく行くわよ』
『ママさまの言うことにはさかられんの』
そうして、新竪町、竪町を通り片町きららの中を抜けて裏通りへ、せせらぎ通りにつながる道である。
そこに目的地、三晃はあった。
途中、おのぼりさんみたく騒ぐ利家さまのことや、女子高生とすれ違いお持ち帰りしようと声をかける利家さまの頭をママがすぱーんと叩いたことはご愛嬌であるので割愛する。
『ママさまの手さばきはすごいの!気配さえ感じんかったわ!ママさまも武芸者か?』
『利家ちゃん♪ひ・み・つ・よ♪』
そして、三晃の扉をガラガラっと開けて店内へ入る。
『あら、今日子さんいらっしゃい!』
女将さんである。夫婦で営むこの店は沢山のメニューがあり片町でも人気の店である。
『今日もお世話になりますね♪』
『ご注文はどうされますか?』
『パパっ♪いつもので良いわよね?』
『ああ、ママ。いつものにしよう』
『女将さん、チャーシュー麺の麺硬め大盛りでチャーシュー増しのネギ大盛りを2つと、普通盛りを1つお願いします』
『はーい♪』
そして、キッチンへと女将さんは向かう。
『あなた、 、チャーシュー麺の麺硬め大盛りでチャーシュー増しのネギ大盛りを2つと、普通盛りを1つね!』
『はーい、毎度!』
店内には漫画がところ狭しとあり、私は利家さまに、修羅の無手を渡す。
『前川どの?これはなんじゃ?』
『まあ、いいから読んでみてください』
『しかたないのお、これも学びのひとつか』
渋々と漫画を開き利家は読み始める。だんだんとのめり込むようにページをどんどんめぐり始めて、止まらない。
そして、あっという間に1巻を読み終えた。
『これは、素晴らしい絵巻じゃの!このような強き者が現代にいるのか?』
『おりますよ』
『信じられん』
『この漫画では、流派としてこのように書いてありますが、実は加賀延命流というのが正しい呼称なのです。一子相伝なので今は今日子が伝承者ですよ』
『な、なななんと!先ほどのすぱーんはそれ故なのか!?』
『あなたも大変な強者ですが、今日子にはかないますまい』
『それは是非にも一手願いたいものじゃの!』
すると、女将さんが出来上がったチャーシュー麺を運んで来た。
『はい、お待たせしました。普通盛りからどうぞ』
『ありがとう♪じゃ、お先にいただきますね♪』
『旨そうじゃの!』
『すぐ来ますから、落ち着いてください』
実はさっきから小声で会話している。右左と前田利家さまの入れ替わりは秘密事項だからだ。
『大盛り2つお待たせしました♪』
『ああ、いつもありがとう』
そして、自家製ラー油をそっと置いていく。これが胡麻油の風味満載のピリ辛で、チャーシュー麺に良く合うのだ。
『『いただきます!』』
ズルズルっ!
『!!!!前川どの!前川どの!このような触感、香り厚みのある肉の旨味!これはたまらんわい!』
『利家さま!声を小さく!』
『そうであったな、すまぬ!』
黙々と食べる三人。
食べる口としゃべる口は同じなので仕方ない。
すると店内の奥に備え付けてあるテレビから、アナウンサーの声が聞こえて来た。
[この度、県立博物館において加賀百万石を築き上げた前田利家公の刀剣や鎧兜が展示され、当時の資料を元に復刻された、6メートル半の槍も公開されています。館内は大勢の来場者で賑わい、利家公ゆかりの品に魅了されています。]
『ん?わしの槍だと?』
『しーーーっ!利家ちゃん。食べたら散歩ついでに連れてってあげるからね♪しーーーっ!』
『ママどの承知!』
利家さまはズルズルと食べるペースを上げて完食した。
『んー!満足!満足!いや馳走になったの!』
『利家さま!声が大きい!』
『…前川どのー。すまぬー。つい癖でな』
まあ、しかたないことである。
武将は声の通り大きさが必須とされていたからである。
私たちはお茶を飲み、お会計を済ませる。
『ごちそうまさでした♪ほんとにいつも美味しいわねー♪』
『ありがとうございました♪』
多分、いつもの私たち家族の会話とは違うので、何かしら察しているのだろう。そっと見守ってくれているようだ。
『それじゃあ、また来ますね♪』
『はい!ありがとうございましたー!』
こうして、三晃での食事を終えて散歩がてらに県立博物館へと向かうのであった。
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