第13話 利家片町を楽しむ

まだ、日が昇るほんの少し前から。風を切る音が聞こえる。


『せい!えい!やー!とー!』


利家の日課の朝の鍛練である。しかし、現代日本の住宅街では迷惑極まりない。


『利家どの!精がでますな!』

『おお!前川どの!どうじゃ?早速やるか?』

『その前に利家どの!声が大きすぎて近所から苦情が来てるので静かにされたい』

『なんと!周りは田畑ではないのか?それにおったとしても皆、起きてる頃合いであろう?』

『寝てます、というか利家さまに起こされてですね、ママが苦情の対応に追われて大変なのです』

『なんと!ママ殿に迷惑になるのか!わかった静かに剣を振ろう』


シュッ!シュッ!シュッ!


(あれー?加州清光やん!真剣やん!)


『利家さま、その刀は?』

『そこに置いてあった、なかなかのものじゃの』


『はい!ストーップ』

『なんじゃ?』

『人のものを勝手に使ってはいけません!』

『…で、あったな。つい良い刀だったもので、つい』

『はぁ』


いそいそと、利家は刀を元の場所に戻す。


『利家どの、折り入ってお話があるのでシャワーを浴びて汗を流してきてくださらぬか?』


(言葉つかいうるつわー)


『あの、シャワーとやらは最高じゃの!いってまいる!』


私は朝のコーヒーを飲みながら、利家さまを待つ。


『利家ちゃん♪お着替えはここに置いとくわよ♪』

『ママどのー!これはかたじけない!』


寝間着から洋服に着替えた利家さまは、着心地悪そうにリビングへやってくる。


『して、話とは?』

『利家さま、良く聞いてくださいね。この時代は利家さまが生まれてから、およそ500年ほど経った未来の日本です』

『500年とな、信長さまは!信長さまは!どうなったのじゃ?』

『天下布武を掲げて天下統一に迫りましたが…現代に伝わる史実では…明智光秀の謀反に合い本能寺で御自害されたそうです…』

『…………信長さまあああ!』


号泣である。先ほど大声を出すなと言ったのに大声で泣きわめいている。


『前川どの!先ほどの刀を貸しては頂けぬか?わしも早く後を追わねば…信長さまは!…信長さまは!さぞさみしい思いをされてるじゃろうに!頼む!貸してくれ!』

『利家ちゃん!良く考えて!あなたの身体は私の愛しい息子右左のものなのよ!許せるわけないじゃない!』


ママもさめざめと泣く


『うぬぬぬ、おなごを泣かせてしもうた!すまぬ、今のことは忘れてくれ!そうじゃ!わしはのママさまの朝げが楽しみなのじゃ!そなたは食の神じゃからの!がはははは!』


利家さまは、万感の想いを押さえ込むように、ママへの気づかいを懸命にする。それにしても、主従の関係がこれほど濃いものとは。。


『ぐすっ!利家ちゃん…今朝はベーコンエッグと味噌汁とサラダよ♪うふふっ…ぐすっ…食の神は自制心を捨てて利家ちゃんの胃袋を掴んで生きさせるからね♪…だから…だから…簡単に死ぬなんて言わないでー!』


ママはしゃがみこんで泣きに泣いた。


『ママ、大丈夫だよ。利家さまはちゃんとわかってるし。人柄も頭も良い。すぐに現代に慣れるさ』

『ママさまを二度と泣かせないように、わしは誓約書を書くぞ!泣かせたらスパッと腹をかっさばいてみせるわ!』

『利家ちゃん…ぜんぜんわかってないじゃなーい!』

『そ、そうじゃな!かっさばいたらいかんな!そなたの大切なご子息の身体じゃ!大事にするぞ!』

『利家ちゃーん!ありがとーう』


ギュー


(あーあーやっちゃったよ)


『ママどのー胸が大きすぎて息ができぬ!死んでしまうわー!』

『あら、ごめんなさいね』


利家さま、真っ赤である。

気を付けねば。



こうして、朝食を食べ学校に休校の連絡をして色々連絡をしてお昼を迎えるのであった。


『利家ちゃん!約束のラーメンを食べに行きましょ♪』

『ママさまの美味というものは素晴らしいのであろうなあ』


桜橋近くにある我が家から、目的地の三晃まで歩いて15分くらいだ。ちょうど良い散歩になるであろう。


玄関を開けて外に出る。

利家さまは玄関でスポーツシューズを興味津々に見ている。


『利家ちゃん、履かせてあけますからね♪』

『前川どの!感謝いたす』


そして、とうとう外界。現代日本の世界へと利家さまは歩みを進めるのであった。







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