第12話 前川家は騒がしい日々
『右左起きろ!おい!』
私は右左(うさ)の父。
名を前川上下(うか)という。
先ほど、つい本気になって右左を気絶させてしまった。
心臓が止まっていたので、蘇生術をしたらすぐに息を吹き返した。やばかった!ママに殺されるところだった!
『げほっ!いててて!』
『右左!しばらく横になってろ!』
『右左だと?怪しい奴め!わしは又左じゃ!』
『頭でも打ったのか?』
『ええい!前田利家であるぞ!そなたは誰じゃ!』
『病院行くか?』
(あー、ママに殺される)
『そなたは、だ!れ!だ!と聞いておろうに』
『はじめまして、前川上下です』
『前川ともうすのか?ここは道場じゃな?よし!一手参ろうか!』
すっーと立ち上がり長槍を構える。
微塵の隙もなく殺気に満ちている。
右左とは別次元の殺気に私は武道家としての本能を刺激される。
自然と私も槍を構えた。
『なかなか様になっておるの、さすがは道場主じゃ、いくぞ!』
これは武道ではなく、殺人術の類いだ!
シュッ!
カーン!
シュッシュッ!カーン!
お互いに決め手が無く、ただ己の技と技をぶつけ合う。
(たのしいなあ又左)
刻を忘れた。
『パパー♪右左ちゃん♪ご飯出来たわよー♪』
『ママー♪今行くよー♪』
『お主の奥方か?』
『もうなんでもいいから、とりあえず飯にしましょう利家さま』
『苦しゅうない』
私は、おかしくなった右左を連れてリビングへ行く。
(ヤバいなあ、なんて説明しようか?)
『パパ、右左、稽古お疲れさま。今夜はハンバーグよ!』
『やったー!ママ最高!愛してるぞ!』
『ちょっと、右左の前ではやめてっていつもいってるでしょ?』
『そなたの名はママというのか、拙者は前田利家と申す、ちと前川殿との稽古が楽しすぎての!腹がへったわ!がははは!』
『ちょっと!パパ!大事な右左ちゃんに変ないたずら教えたでしょう!』
ママの背後に紫色のオーラがゆらめく。
(ヤバいヤバいヤバい)
『説明して!』
(逃げちゃダメだ!逃げちゃダメだ!)
『あー。こちらにおわすお方は槍の又左こと前田利家公である!ひかえよ!』
『ははーーーっ!』
(のりが良いのが可愛いんだよなあ)
『ぢゃないでしょ!パパ!』
(ですよねー)
『すまぬがちちくり合うのは茵でしてくれぬかの?わしは腹がへってかなわん』
『右左ちゃんの成りきりゲームは可愛いから許しちゃう。さあ、食べましょ!』
『珍妙なものばかりじゃのう…この真っ白いものは米か?』
『そうでちゅよー。利家さま』
『そなた、わしのことを馬鹿にしておるであろう?』
『利家殿、さあさあ召し上がってください』
『うむ、どれどれ』
上品な手つきで食べ始める。
『なんと!これは!美味じゃ!』
『そうでちゅか?利家ちゃん♪おかわりいっぱいありますからねー♪』
『ママ殿よ、そなたは食の神のようであるな!おかわり!』
『はいはい♪』
(利家さまなついてるじゃん)
『ママ、話したいことがある』
『なんでちゅかー?パパ』
『実はの先ほど右左との立ち合い稽古で打ち所が悪くてなあ、気絶したんだ。活を入れて起こしたらな。前田利家であるぞ!というわけで、右左と利家さまは魂が入れ替わったみたいなんだ』
『パパ!すてき!なろう系の転生ものね?それじゃあ…右左ちゃんは戦国時代で大活躍してるわねー♪』
『私も利家さまと立ち合い稽古をしたが、右左なら後れをとることはないと思う』
『素敵じゃない!』
(そうだった…ママは小説を読もうサイトの大ファンだった)
超絶的に理解の早いママは、どんどんおかわりのご飯を利家さまに供給している。
『いや!満腹じゃ!馳走になった!』
『利家さま?今度、片町にある三晃のチャーシュー麺食べに行きましょ!右左の大好物なの!だからね!絶対気に入ると思うのよー♪』
『ママ殿よ手前金子がないのだが?』
『利家さま御馳走しますよ』
『まことか!そなたはういやつよのう』
(ういやつ?ちょっとカットインせねば!)
『利家殿、ママは私の妻ですので、そこはひとつご配慮をお願いいたします』
『そうであったな!すまぬ、すまぬ』
『パパ、お風呂沸いてるけど。利家さま使い方わからないはずだから一緒に入ってあげて』
『わかったよママ』
そのあとお風呂場に行った利家は、驚きと満足感で上機嫌であった。背中をこすってあげたら、交代してこすってくれた。
『信長さまが心配じゃ』
『右左がついているから大丈夫ですよ』
『そうかのぉ』
しばらく学校は、休ませて現代社会のマナーや話し方。基礎的な勉強を教えなければいけないだろう。
(!)
それと、女の子との現代の距離感を厳しく伝えないと大変なことになりそうだ!
こうして、利家さまは右左のベッドへ。
私たち夫婦は今後のことを寝室で相談するのであった。
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