投資を再定義する① 基準を創る

「投資を再定義する」


収益改革の仕上げの段階で

税理士の所長先生から言われた

命題である。


投資可能額とはいくらなのか?

投資回収はいつまでが妥当か?


倒産危機を乗り越えてから

10年以上の歳月が流れていた。


特に、ここ数年

新たなビジョンのもと、

事業の多角化や人材増強などを

積極的に行い、いわゆる投資を

増やしてきたのも事実である。


しかし、達社長

「投資に見合った価値はある」

そう判断をしていた。


何より直近の業績が

それを物語っていると。


しかし、

所長先生の見立ては違った。


「確かにビジョンは素晴らしい」

しかし、

「環境利潤の側面も否定できない」


つまり、これからも

同じように上手くいくとは限らない

と考えよと言う提言である。


しかも、投資に対する

金額と時間軸が曖昧なことは

確かである。


「一週間後、またお話ししましょう」


達社長自らで、財務体質や業績状況を

見極め、その答えを出してくれ。


そういう意味である。


達社長は、総務課長と一緒に

「金額と時間軸での再定義」

に早速取りかかることにした。


二人とも、数値は苦手ではない。

ゆえに意外に早く、投資の再定義

の答えは明確になった。


一週間後。

久しぶりに、税理士の所長先生の

事務所にお邪魔することになった。


所長先生から

「社長とのみお話しがしたい」

そう言われたからだ。


所長先生

「投資の再定義はどうですか?」


挨拶もそこそこに、

いきなり本題に入っていった。


達社長

「はい。年に稼ぐ資金の範囲で

投資をし、三年以内の回収を

基準にしたいと思います」


明快にそう解答した。


すると、所長先生

「では、

ビジョン実現に必要な投資でも

三年で回収出来なければ、

やらないと言うことですか?」


確かに、街を元気にする為の

施設運営投資など、場合によっては

三年回収が無理なものもある。


達社長は、少し困った顔をして

「基準は基準ですが、

例外もあります」

そう答えるしかなかった。


「例外がいくつもあるなら

基準はないのと同じですよ」


口調は柔らかだが、

明らかに厳しい表情で

所長先生は

達社長に語りかけてきた。


「そうか、社長とだけ話したいとは

この事だったのか」


達社長は、やっと所長先生の

真意を理解すると同時に、

ビジョンと向き合いながらの

「投資の再定義」が

いかに難しいかを

改めて感じずにはいられなかった。


答えを返せずにいた達社長に

所長先生は、笑顔で2つの提案を

してくれた。


一つが

「投資の性格を分類しよう」

である。


今必要な投資から

未来を創る投資まで

投資と言っても様々だからだ


もう一つが

「金額と時間軸に加え、

撤退基準を設定しましょう」


金額と時間軸、つまり

投資額と回収期間だけでは計れない

投資がある以上、

撤退基準を明確にしておくことが

欠かせないと言うのだ。


「達社長のビジョンは壮大です」


「だからこそ、投資を再定義しないと

取り返しがつかなくなる

かもしれません」


ここから

所長先生と二人三脚での

「投資の再定義」活動が

始まろうとしていた。


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