投資を再定義する② 経費でなく投資


「投資を再定義する」


税理士の所長先生から頂いた命題。


投資の性格づけと撤退基準の

確立に向け、先生との「格闘」が

いよいよ始まる。


先生からは、大方針が固まるまでは

達社長とのみ、

意見交換したいと言われた。


「社長にしか決められない」


つまり、社長以外では責任が

取れない。

それが中小企業における

投資だからだ。


その、原則をいやと言うほど

理解している。


しかし、

未来への動きを加速させたい

達社長の意見は違っていた。


「次代を担う建築部長や総務課長も

参画させたいです」


自分一人では、未来がつくれないと

わかっているからだ。


「なるほど、わかりました」


「社長が全て!ではない

そういう時代なのかも

しれませんね」


所長先生は、

直ぐに、達社長の提案を受け入れて

下さった。


「いつも、柔軟だな」


達社長は、そんな所長先生が

側にいてくれる環境に、

改めて感謝している。


「では、ホテルなど、

少し雰囲気を変えてやりましょう」


そう、所長先生から

提案されたこともあり、


駅前高級ホテルの、

海の見える会議室で

「未来を創る 投資の再定義会議」

を、行うことにした。


翌月、ミーティング当日。


達社長と建築部長、総務課長三名は

いつもとは違うラフな格好で、

ホテルの会議室を訪れた。


所長先生から

「答えのない 意志を決める場」


だから、堅苦しくない方が良いと

アドバイスされたからだ。


グレーのスーツに白いシャツ

これが定番の所長先生も

「想像を超える」カジュアルな格好

で、来られたのには驚いたが。


挨拶もそこそこに

ミーティングが始まった。


まずは、

「投資の性格」の分類整理である


「必要な投資を上げましょう」


先生に促され、

建築部長が切り出した。

「投資と経費の違いは何ですか?」


人員増は経費。

機械購入は投資。


経理的にいえば、

そうなのだろうが、


今一つピンとこないと言う。


所長先生は、笑いながら

「良い質問ですね」


と話され、

「達社長いかがでしょうか?」

とボールを渡された。


経理ルールに縛られなくて良い。

そう言うメッセージである


達社長、

「未来を良くする為に使う

まとまった金額です」


建築部長

「すみません。意味がわかりません」

ストレートである。


達社長

「つまり、私達が投資と考えた

ものが投資だと言うことです」


投資を定義するのではなく

私達の投資が何かを具体化したい


それが達社長の

「投資の再定義」の考え方で

あった。


所長先生

「良いと思います」

直ぐに、あと押ししてくれた。


建築部長


「現場のデジタル化は不可欠」


「デザインや設計強化の

投資も増やしたい」


「リニューアル部門の拡大に

向けた、人員増だって必要だ」


「WEBを活用した、顧客獲得活動

にも、もっとチャレンジしたい」


さらに、続けざまに

「懸案の本社社屋も

リニューアルしたいです」


鼻息はかなり荒い。


お金がいくらあっても足りないな。


そう考えながら、

「総務課長はどうかな?」


達社長は

まだまだ言い足りない感じの

建築部長を制して、

話しを総務課長にふってみた。


落ち着いた口調の

総務課長はゆっくりと


「経理基幹システムは

見直しが必要だと思います」


「あと、投資とは言えないかも

しれませんが、社屋旅行も

そろそろ予算化したいです」


そうなのだ。


事業の再定義と、収益改革を同時に

行ってきた関係で、

三年に一回程度行っていた

社員旅行は、もう5年以上も

実施していない。


会社の成長ばかりに目が奪われて

いたかも知れない。


達社長は、反省しながら

話しを聞いていた。


すると、建築部長

「あと、M&Aも投資ですよね」


街づくりビジョンには

新たな事業領域も欠かせないだろう。


一時間もしないうちに

20を超える投資項目があげられた。


社員旅行のように

財務的にも、一般的にも

「投資」と定義されない

項目もありそうだが、

それはここでは関係ない。


「私達に必要な未来づくりなら、

それは経費でなく投資」


まずは、この考えを共有したい。

達社長の思いである。

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