第5話 青春とは程遠い6度の春を超えて

17歳、思い立ってからずっと勉強していた。

いざ計画を立てると不鮮明だった未来は微かな輪郭を現しはじめ、その目標のために俺は全てを捨てても掴もうと必死になれた。

元々楽しくなかった高校生活は自分一人の世界に入り込むことで密度を増し、その月日はあっと言う間に過ぎていった。



18歳、気づけばもう高校も卒業だ。

毎日の成果か、受験は見事成功し次の春から無事東大生となる。ある意味何も考えることなく受験に向かっていた故、合格しても周りはどの達成感はなかった。何よりその先を見ていた。この合格より遠くに俺の望む幸せが待っている。そんな思いでいっぱいだった。


高校生活は時に自殺を考える程度のものであったし、途中からは何にせよ目標に向かって走ったことでそれなりに有意義なものだったと思える。高校生らしい青春、なんてものは片時も得られなかったが、後悔などあろうはずがない。俺は瞬間的な快楽より慢性的な幸福を望んだ。ただそれだけだ。

周りが涙でいっぱいの卒業式も俺にとっては退屈な毎日の1つとなった。


19歳、一人暮らしをはじめた。

受験合格等により親からは自由に決めていいと、今後のことを許してくれた。

親元を離れて苦労をするも、最終ゴールを目指す上では大したことないものだった。周りにより面白いやつが増えたが、俺の計画は揺らぐことはなかった。



20歳、酒とタバコが法的に認められる歳になったが案の定携わる機会と興味はなかった。

成人式に呼ばれたが敢えて参加せず、かわりに短期の海外留学をした。視野を広げるため、そして一度都会の喧騒から逃れてみたかった。海外の空気は新鮮でとても心地よかったが、俺の性には合わなそうだった。



21歳、経済学部に進学。卒業、そして就職活動へ向けて本気で準備を始めた。俺にとって最後の踏ん張りどころであった。頭は余計な思考を生むことなく順調に計画を進めていった。



22歳、難なく卒業。周りには大学院に進む奴が少なくなかったが、俺は周りを見ない。想定通り大企業への就職を決める。ここまで順調に来れて一安心するとともに、これからの新たな生活へ向けて奮起していた。



この6年は俺にとって計画の一部に過ぎないが、一切の感情なしに乗り越えてきた。青春なんてものはいらない。ただ望む人生の終焉に向かって生きるための6年だったが、計画の上では今のところ大成功だと思った。計画は意外とうまくいくものだ、とこれから起こる想定外の大事件も知らず呑気にいる俺であった。

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