第3話 自分という存在を
※この話から語り手目線ではなく朝陽目線で話が進みます。それでは本編をどうぞ。
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捕まってしまった。
正確にはまだだが、目の前で行われる手続きを見る限り手遅れなのは確かであろう。
所謂、痴漢冤罪というものだ。
女性に痴漢宣言された後、自分に起こった事を理解するのに数分要した。その間に周りの乗客に連れられ駅員室へ連れてかれた。
ここで日本の痴漢容疑者に対する扱いを知った。
正直絶望しかなかった。
どれだけ罪を否認しても納得されず、目撃者はいないにもかかわらずもう犯人扱いであった。
被害者である女性ですら「本当にこの人がやったかどうかは曖昧」と答える有様である。
この状況で犯人扱いする駅員と警察に怒りも悲しみも何も生まれなかった。
なすがままでいると警察に連れてかれ、長い間事情聴取を受けることになった。親にも連絡があったらしい。痴漢とは大きなニュースにはならないが、近所に住む面識のない人が知る程度には広まるものだ。申し訳ないことになったと思いながらも、親に会うことなく警察署へ向かった。
自白の強要とはこのことか、と思いながら聴取を受けると同時に自らの自殺のことを考えていた。
「ある意味目立っちゃったなぁ。死ぬに死ねねぇじゃん。」と思いながらもこれからのことを少しずつ考えていった。
数週間警察にいると突然釈放された。
誤認逮捕であったことが発覚したのだ。
久しぶりに見る空は捕まった日と同じような綺麗なものだった。迎えにきてくれた親はいろんな人に謝られながら手続きをして何も言わずに俺を車に乗せた。
車が走り出しても車内は静かだった。
家に着くと母親から
「おかえり。たいへんだったわね。」
と言われ、思わず泣いてしまった。
自殺を決意してから初めて自分の存在を認められた気がした。
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