第2話 運命や是如何に

死ぬ場所を隣町のビル屋上に定めた朝陽。

今日はその決行日だ。


太陽を映えさせるような澄んだ空気と真っ青な空が綺麗な日、春の終わりと始まりを予期しつつ、まだ少し肌寒さを残しながら暖かい1日となりそうな日だ。

そんな日に彼は死のうとしていた。



決行の場所へ向かうため最寄駅へと向かう。誰も彼が今から死ぬとは思っていない。

周りはいつもと変わらない日常の延長にある。この風景を見てまた彼は思うのだ。

"俺の有無に関わらず世界は今日も、そしてきっと明日も動いていくのだろう"と。


彼は駅のホームに着いてからずっと考え事をしていた。あのバンドは良かったなぁ、最後の飯はチーズトーストかぁ、など死に向かっているとは思えない何気ないことを考えていた。


数分後、ついに電車が来る。

しょうもないところで真面目なためか、多くの人に迷惑をかける飛び込み自殺は選ばなかった。むしろ自分の死という大事な瞬間に向けて電車に乗ることで気持ちを作るためかもしれない。

電車の中は休日昼前だからか、かなり混んでいた。まあ目的地まで一駅だし、と朝陽は気にすることもなく電車に乗る。



隣町に向けて発車した電車の窓には懐かしい景色が映る。小さい頃からこの町で過ごした朝陽にとってまさに走馬灯のようなものに思えただろうか。


次の駅が見えて来た。

「ほんとに俺は死ぬんだな...」とだんだん緊張してきた朝陽。その時、いきなり前の見知らぬ女性が振り向き朝陽の手を取った。

そして恥ずかしそうに手を上げながら電車内に言い放つ。



「この人、痴漢です!!」

「えっ?」


朝陽の緊張は思わぬ形で解けてしまった。


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